キング アーサーのここだけの話
騒動からの逃亡
堀田さんは昼寝のメンバーに入れと言った。
シンさんは人生を悔い改めるために文章として残せと言った。
じゃあメンバーとなって、ここでしか言えないようなことを書くとするか。
あれはまだ、俺が大学院に通っていた夏休みのことだ。
ものすごいノックの音とともに、隣の部屋へ誰かが大声を張り上げながら侵入していくのを、薄い壁の向こう側から聞いていた。
こんな早朝に何の騒ぎだと思い、廊下へ顔だけ出した。
すると、俺と同じようにドアから顔を出した宿泊客たちで顔を合わせ挨拶を交わす間抜けな会合となった。
扉から顔だけを覗かせていた客たちで騒ぎの情報を交換しあう。
ホテルは大きな吹き抜けを囲むように客室が並んでいたが、問題の隣部屋と、さらに向こう隣の1室からだけは顔が出ていなかった。
ジュライロータリーの脇に建つその安宿は大人気でいつも満室なのだが、今日に限って空室があったのだろうか。
そんな推論を交わしていたとき、空室と思っていた向こう隣の部屋からカップルが飛び出してきた。
背の小さな男は長髪を一本に束ね、ハットを目深にかぶっていた。
大きなバックパックを背負い、片手にギターケース。もう片手は後ろ手に女の手を握り、俺の部屋を通り過ぎて行く。
そして、誰に目を合わせることもなく足早に階段へと向かっていった。
女は20代前半くらいの白人。キラキラと輝くようなストレートのブロンドヘア、透き通る青い瞳が印象的だ。若かりし頃のニコール・キッドマンに似た美人で、ショルダーバッグを斜めがけし胸にはデイパックを抱えていた。
「もうここは安全じゃないかもよ」
ニコール似の女は、廊下に半身を乗り出していた俺に英語で言うと、ウインクしながら「メイビー」と続け、男を追うようにして階段を駆け降りていった。
その後ろ姿を目で追いながら、強い衝撃を与え一瞬にして去って行く、まるで突風のようだと感じていた。
続く