キング アーサーのここだけの話
青い瞳のニコール
俺がバンコクに来たに理由は、医学部の授業で使う学術書の複製品を買うためだった。
ここに来れば本物の100分の１ほどの金額で複製品が買えることを先輩から教えてもらい、昨年の夏休みにも同級生からのオーダーを取り、買い付けに来ていた。
同級生も俺にいくらかのマージンを払ったところで、授業で絶対に必要な学術書を格安で手に入れることができる。
俺も荷物は増えるが、マージンで学術書を買え、さらに海外旅行が楽しめる。
ウィンウィンの関係が成り立っていた。
もちろん分厚い学術書を買うのは旅の最終日。
先に買えば荷物にもなるし、本屋へ数日間通えば、それだけ値引き交渉も有利になってくるからだ。
騒動があった日の昼間、カオサンを歩いているとニコール・キッドマンに似たあの女と何度もすれ違った。
一緒にいる男は俺のことを気づかずとも、ニコール似の女は短いながらも俺に言葉をかけたのだから見覚えくらいはあるはずだ。
それなのに、そんなことなどまるでなかったかのように、ニコールは俺に気づく様子がなかった。
ニコールの青い瞳は俺ではなく、いつも違うどこかに向いていた。
夕方すれ違ったときも、青い瞳は俺に向くことはなく、俺はついに尾行することを決意した。
続く
次回の話／単なる尾行か、ストーカーか
前回の話／騒動からの逃亡
小林 Arthur 朝太郎
キング・カズと生年月日が一緒の1967年2月26日生まれ。外人は＜アサタロー＞と発音しにくいらしいので、海外では＜アーサー＞と名乗っていたら、親しい外人仲間が＜キング・アーサー＞とニックネームをつけてくれた。「アサタロウ」と日本で名乗ると「アソウ・タロウ？」と聞き間違いされることが多々ある。彼が幹事長のときは俺に＜カンジチョー＞のあだ名がつき、総理大臣になると＜ソーリ＞と呼ばれるようになったが、彼の総理大臣辞任後も俺の格下げはなく、いまでも＜ソーリ＞のあだ名は定着している。本業はコーディネーター。
