キング アーサーのここだけの話
ギャンブルの神はいずこへ
あの日本人ぽい男は1プレイで大金を手に入れたので、すぐにでもゲームから離脱するかと思ったが、覇者となるべく次の挑戦を愚かにも受けて立った。
それから20ゲームは勝ち続けただろうか、ビリヤードテーブルの淵に置かれた札は目に見えて厚いと思える重なりになっていた。
覇者の特権として、ドリンクをオーダーすると挑戦者の支払いとなる取り決めがある。
挑戦者にしてみれば、覇者を酔わして勝ちに一歩近づく、損のない取引でもあった。
男は遠慮なく、挑戦者ごとにドリンクオーダーを続けていたので、20杯以上は飲んでいただろう。
勝ってるいま、ゲームをやめたほうが得だ。
せっかく儲けた大金を酔っ払ったせいで失う前に、正気のうちに退却したほうがいい。
<いまやめろ、いまがやめどきだ>俺は心の中で、男に訴えかけていた。
だが、あの男にそんな考えは毛頭ないのかもしれない。
もしかしたら、すでに酩酊状態で、その判断がつかなかったのかもしれない。
男はより一層調子づき、ビリヤードテーブルから離れようとしない。
俺は、いまやめろと願う一方で、心の片隅では<負けろ、負けてしまえ>とも念じていたかもしれない。
しかし俺の祈祷はギャンブルの神に届くこともなく、男はさらに勝ち続けた。
喝采を続けるギャラリーの中心に、長い時間あの男がいて、その男の頬に自分の頬を無邪気に寄せるニコールがいる。
底知れぬ劣等感を感じていた俺は、ゲームの敗者よりボロ負けの気分を味わっていた。
続く