キング アーサーのここだけの話
生き死を賭けたプロ
俺は100バーツで売っているTシャツの正規価格が、心底知りたくなった。
「きっと10バーツぐらいまでディスカウントしたって、奴らは儲かるようになってるんかもな」とシンさんは答えた。
10バーツ=50円。(1990年代初頭のレート)
それでも儲かるというなら、原価はいったいいくらなのだろうか。
「そうなの!」俺は心の底から驚きの声をあげた。
「ほんで結果的にハーフプライスで交渉を終了させた。それでも客は喜んでるし、こっちもウハウハ。日本人はカモにしか見えんわな。」
「じゃあ、もっと交渉できるってこと?」
「ああ、たぶんそうやな。でも・・・」
「でも、なに?」
「それが買い手にとって本当に必要なモノなら、売る側が有利。底値まで言い当てたら相手は『売らない』の一言でお終いや」
「それが必要じゃないモノなら?」
「買い手は本気の駆け引きなんてしないやろ。ハナから暴力的なディスカウント交渉ではじまる」
「そうだね。特に欲しいモノじゃないときって遊び半分で、最初からいきなり50%ディスカウントなんて言ったりするもんね」
「でも相手は全然余裕や。気持ちにゆとりのある奴は強い」
「同じ階級のリングにあがってないってことだね」
「ああ。それでちょっと軽いパンチでも、もろうとこかってな感じで、『マックスリミット25%ディスカウント』って苦しい顔しながら言いやがる」
「あれって演技だったの」
「そういうことやな。全部見抜いてるんやろ」
「そう考えると、すごいね」
路地裏を激走するトゥクトゥクの荷台で揺られながら、「相手は商人やなくて、生き死を賭けたプロのネゴシエーターやからな」とシンさんは呟き、意味深げに目を細めた。
続く