LIFE,  TRIP

キング アーサーのここだけの話
ちょうどいいサイズ感

この市場にあるものはすべて盗品だ。

旅行者のバックから抜き取った無料で配布されているようなガイドマップ。

すでにメッセージの書き込んである絵葉書。

ホームシックにならないように持ってきた家族との写真。

ここではなんでも売り物として並ぶ。

 

シンさんは俺にバックパックを出すよう合図した。

そして大げさな演技をしながら、いまや売り物として並んでいる俺のバックパックの上蓋を合わせ、大きな声で歓喜した。

「ジャストフィット!」

 

クサイ演技にもほどがあるってもんだ。

ジャストフィットなのは当たり前。

それでもシンさんは、店員に尋ねた。

「ちょうどいいサイズ感だから買おう。これいくらだ?」

 

盗まれた俺のバックパックの上蓋を、買い戻そうというのか。

そのバッグには、果たしてどんな価値がつくのだろうか。

俺も自分のことながら、すごく興味が湧いた。

 

シンさんのハウマッチの問いかけに、店員は応えた。

「1バーツ」

 

たったの5円・・・。

 

続く

次回の話/見合わない労働対価

前回の話/開き直った店員

キング・カズと生年月日が一緒の1967年2月26日生まれ。外人は<アサタロー>と発音しにくいらしいので、海外では<アーサー>と名乗っていたら、親しい外人仲間が<キング・アーサー>とニックネームをつけてくれた。「アサタロウ」と日本で名乗ると「アソウ・タロウ?」と聞き間違いされることが多々ある。彼が幹事長のときは俺に<カンジチョー>のあだ名がつき、総理大臣になると<ソーリ>と呼ばれるようになったが、彼の総理大臣辞任後も俺の格下げはなく、いまでも<ソーリ>のあだ名は定着している。本業はコーディネーター。