ヒツジ飼いの冒険
第22話 偵察
視線を辿ると、密集している木の枝にとまったミミズクがいた。
木陰に隠されながらも赤く強い両眼が光っている。
目が合ってもミミズクは動じることなく、まったく微動だにしない。
その力強くもどこか冷たく感じる視線に、レオナルドは凍りついた。
ミミズクの冷静な注目はしばらく続いた。
レオナルドもミミズクのことが気になって観察を続けたが、一晩を明かした眠気にはついに勝てなかった。
両肘で上半身を支えたまま凍りついたレオナルドは、そのままの姿勢で落ちるように眠った。
どれくらい眠っていたかわからない。
数秒かもしれないし、数時間、あるいは丸一日寝過ごしたかもしれない。
充分すぎるほどの安眠を得た実感は確かにある。
いまだ薄明の中、レオナルドは「バサッ」という大きな音で目を覚ました。
目を開けるとミミズクがレオナルドの上空を静かに旋回していた。
あの大きな音はミミズクが飛び立つときに、わざと大きめに立てた羽音に違いない。
ミミズクは確実に自分の存在をレオナルドに知らしめたのだ。
羽音で目を覚ましたのはレオナルドだけではなかった。
頭を隠すように丸まって寝ていたヒツジたちも一斉に目を覚まし、同じ方向を見ていた。
ミミズクの旋回が描いた輪は、ヒツジたちの群衆と同じ大きさだった。
最初は羽の風圧を感じるほど低い位置で飛び、旋回しながら螺旋状に円を描き、徐々に高度を増していった。
レオナルドもヒツジたちもミミズクの旋回を目で追った。
ミミズクもレオナルド一行から目を離すことなく、旋回した。
レオナルドの視力ではミミズクの目が確認できないほどの高度になっても、ミミズクからの強い視線を感じていた。
圧倒的な存在感を示し続けたミミズクは旋回し続けながら上昇し、円の直径を大きくしていった。
やがてその存在がレオナルドの視力では追えないほどの高度に達した。
それでもミミズクからの視線を感じる。
ミミズクが描いた円は確実に広くなっている。
ゆっくりと飛び続けるミミズクの視線を周囲360度から感じる。
レオナルドは、自分たちが常に監視下にあることを認識した。
ヒツジたちは、自分たちが監視下にあることを認識しているのか、まったく認識していないのかわからないが、ゆっくりと立ち上がり草を食みはじめた。
ヒツジたちはただ無心に草を食んでいるように見える。
食べられるときには一心不乱に食に集中する。
レオナルドは落ち着かない自分の心を止めようと、ヒツジたちを見つめた。
ヒツジ飼いの冒険(第23話)へ続く
ヒツジ飼いの冒険(第1話)から読む
*ヒツジ飼いの冒険は毎週日曜日12:00公開を予定しています。