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ヒツジ飼いの冒険
第30話 交渉

こうしてる間にも、鳥の大群がつぎつぎと町へ向かっているのがわかる。

それも空を完全に覆い尽くすようなおびただしい数の鳥の群れ。

 

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飛べない鳥、ニワトリ達も飛んでいる気になっているのか、羽をバタつかせながら町の方向へと走り出した。

 

黒い羽の交渉人は赤い羽の交渉人へ尋ねた。

「どうする。どうする」

 

赤い羽の交渉人は何度か首を傾げ直し、レオナルドへ向かっていった。

「お引き取りくださいませ」

「おい、赤いの。オマエ、交渉人のくせに<お引き取りくださいませ>しか言ってねえな。もしかして、交渉人とか名乗りながら、本当は言葉がわからねえんじゃねえのか」

ずっと黙っていたジャックがやっと口を開いたと思ったら、せっかくの交渉を台無しにするような物言いだった。

 

「交渉人なんて言ってない。交渉人なんて言ってない」黒い羽の交渉人が返した。

「ああ、確かに交渉人じゃねえよな。ワシたちが便宜上、交渉人って呼んでるだけだ。それでもオマエらは交渉ができるくらい、言語能力が発達しているはずだろ」

「助手だ。助手だ」

「おい、黒い羽。オマエはなんで同じことを2度も繰り返すんだ」

「間違えないように、確認だ。間違えないように、確認だ。」

「じゃなくて、単なるクセだろ」ジャックは相手をイラつかせるような言動を続けた。

 

その間に、ヒツジに跨っていたはずのレオナルドはニワトリたちが去った静かに地面に降り立ち、そっと歩みを進めた。

 

それをまったく気づかないほど、赤い羽の交渉人と黒い羽の交渉人はジャックとの会話に集中していた。

 

ヒツジ飼いの冒険(第31話)へ続く

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*ヒツジ飼いの冒険は毎週日曜日12:00公開を予定しています。

カヌーイストなんて呼ばれたことも、シーカヤッカーと呼ばれたこともあった。 伝説のアウトドア雑誌「OUTDOOR EQUIPMENT」の編集長だったこともあった。いくつもの雑誌編集長を経て、ライフスタイルマガジン「HUNT」を編集長として創刊したが、いまやすべて休刊中。 なのでしかたなくペテン師となり、人をそそのかす文章を売りながら旅を続けている。