COOK,  LIFE

珈琲をもう一杯 / 第三十六話「マンデリン・後編」

頻繁に顔を出していた赤ら顔は
顔を見せなくなり、また、
役人達も次第に来なくなったんだ。

おいら達は仕事を放棄するようになり
栽培地は放ったらかしさ。

その後の事は良く分かんねえけど
風の噂では北へ離れたトバと言う
大きな湖の周辺でもおいら達が栽培
していた樹と似た樹が持ち込まれて
別の部族が栽培を始めたみたいだぜ。

そうそう、おいらが暮らした島は
スマトラ島って言うのかい
おいらが世話になっているのは
その北の山岳近くの
マンダイリンって呼ばれてる
所で、たか兄ぃを長老とする
マンダイリン・バタック部族さ。
知ってるかい、
人を食べる部族だって恐れられて
るんだぜ。

暫くして、
おいらは故郷の南極に戻ったん
だけど、ある時、南極観測隊の
日本人がコーヒーをご馳走して
くれてさ、これがあまりに美味し
かったので何ていう豆か聞いたらさ、
驚くなよ。

インドネシアの北スマトラ島の
マンデリンって豆だって言うじゃないか。

北スマトラ、マンデリン?

ひょっとして、

たか兄ぃやおいら達が作ってた
やつじゃないか。

いやぁ、腰が抜けだぜ。

観測隊の人が言うには
北スマトラで採れたコーヒー豆
(例外あり)はマンダイリン部族の
名前にあやかりマンデリンと呼ばれて
るってさ。

それなら、マンダイリンにしてくれよ。

まあ、今のマンデリンっう豆は当時とは
栽培地、品種等も違うから味わいは
似ても似つか・・

おっと、これ以上は止めとくか。
だけど、たか兄ぃ達が作ってた豆は
海外で

The best coffee in  the world と
言われてたんだってよ。

へへ、おいらの自慢さ。

マンデリンなら
スリーペンギンズのが
美味いぜ!

航空会社に勤めていたものの、うん十年前は「カヌーイストになるんだ!」と、チキンラーメンを食しながら川を下る。 かと思えば、「ウミンチュになるぞ!」と、沖縄の海で鯨を追いかけたりもした。 が、「ちゃんと仕事はしてるのか!」と、皆が疑問を呈しだしたので、「こりゃいかん」と退職。 まっとうな人生を送るべく、珈琲屋として再スタートを切る。 深煎り珈琲が味わえる『スリーペンギンズ』(横浜市磯子区滝頭 3-4-22)の店主に収まる。