FOOL,  TRIP

法螺吹き男爵の『a fool on the hill』/「hill.ne.jp」事始め

あれは、忘れもしないニュージーランドでの物語。
けど、いまとなっては思い出せない。
いつのことだったのだろう。
もしかしたら、地球の上では、恐竜が幸せそうに昼寝していた時代だったかもしれない。

僕は、ニュージーランドの小さな街で、ひとりの日本人に出会った。
その男は、バックパッカー(ゲストハウスのような安宿)で、旅人の髪の毛を切っていた。流しの散髪屋さんだ。
旅が長くなった僕も、ある日、彼に髪の毛を切ってもらうことにした。

「お兄さん、男前ですね!」
「あ、それ。よう言われるわ」
「どこから来られたんですか?」
「あっち」と、指を差す。
男は、僕が指差した方をちらりと見て、「国境の向こうですね」と。
「ま、そんなところやな」
ようするに、散髪屋さんでよくあるような世間話をしたわけだ。

そのときの話を要約すると、男は、旅人の髪の毛を切りながら、細々と金を稼ぎ、大胆な旅を続けていた。
もっと簡単にいえば、日本では暮らせない特別な理由があったのだ。

ところが月日は、いやでも流れていく。
いつの間にやら、その「特別な理由」も時効となり、その男は日本に帰ってきた。

ふたたび出会ったのは、あれは忘れもしない。
いつだったかな……。
どこだったかな……。

「あ、あのときの男前!」
「あ、それ。よう言われるわ」
「ん????」

そのときは、散髪はしてもらわなかったけど、ビールを飲んで散財した。
そして、月日はいやでも流れていく。
二度目に会ったときの話も、いまとなっては化石だ。

平成が終わりそうなある日、われわれは、またまたビールを飲みながら、その勢いで「hill.ne.jp」をはじめることにしたのだ。
野上真一と堀田貴之。
以後、よろしくお見知りおきを!

まだ髪の毛が黒かった時代のお話

旅作家を名乗り、海外へも旅立つが、知っている単語はBEERだけ。 それでもなんとか暮らせるので、今後もBEERだけ発音をうまくできれば大丈夫かな。  てなことを言ってるうちに月日は流れ、いまでは『いんちき仙人』をめざして邁進する毎日。 「かすみ」と「ビール(ついでにワインも)」があれば、生きていける。 と思ったけど、いまだに捨てられない煩悩が200個ほどある。 そんな日々を過ごしているいまとなっては、にわかに信じがたいが、『一人を楽しむソロキャンプのすすめ』(技術評論社)、『ホットサンド 54のレシピと物語』(実業之日本社)、『タルサタイムで歩きたい』(東京書籍)などなどの著作もある。