
キング アーサーのここだけの話
はじまりのはじまり
ある日、堀田さんからの電話が鳴った。
「いまシンと一緒に河原で焚き火しながら飲んでるから、朝太郎も来ないか」
めんどくさい二人だなあと思ったけど、断るともっと面倒なことになりそうだ。
「すぐに行きますけど、どこの河原へ行けばいいんですか」
「ちょっと待ってくれ、シンに替わるから」
場所を知らせるとか、面倒なことを堀田さんはしない。
シンさんも微妙だ。
<道はローマまで繋がってる。どんなところでも勘を頼りに来い>とか言いそうだし、<酔っぱらってて、誰か暇なそうなヤツを呼ぼうなんてノリで言ってるだけで、もうすぐ寝てしまうから来なくていいよ>と優しいことを言ってくれそうな気もする。
本当に人生を踏みはずしている堀田さんとシンさんのことだから、昼から飲んでいるに違いない。
夕暮れまでにはまだ時間がちょっとあるけれど、結構なペースで飲む二人だから、もう酔い潰れそうになっててもおかしくない・・・と思ったが。
「おお、朝太郎か! 位置情報を携帯に送ったから、すぐに来いよ」
シンさんはつい何年か前に携帯を持ったばかりだというのに、位置情報を送って呼び出すなんて、何十年も携帯を持っている俺が一度も使ったこともないような技を平気で仕掛けてきた。
しかも、いまにはじまったことではないが年上の俺に「朝太郎」と呼び捨てで。
でも考えてみれば、シンさんは10歳以上年上の堀田さんのことも「たか坊」と呼ぶし、俺も俺でシンさんなんて「さん」づけだ。
色んなことが間違っている。
黄昏に染まる河原へMaker’s Markの差し入れを持って行くと、二人はまだ発売前という堀田さんプロデュースのスキレットを突つきながら、俺に何やら密談を持ちかけた。
「街なかでは話せないが、ここなら誰にも聞かれる心配がない。朝太郎、実はな、人生を素敵に踏みはずした者だけが入れる昼寝のメンバーにお前も入れてやるから、すぐにでも準備しろ」
もうすっかり日も暮れかかっているのに昼寝だなんて、堀田さんは何を言ってるのだろう。
「そうだよ。お前みたいな人間は人生を悔い改めるために、いったいどの時点で間違ったのかをハッキリさせといた方がいい。ほかの人も朝太郎のマネをしないように、ここでしか言えないような話を文章として残しておくべきだ」
シンさんは文章を書けと言い、堀田さんは昼寝の準備をしろと言う。
正直な話、何を考えているのか、さっぱり見当がつかない。
会話が噛み合わないこの二人は、シラフのような表情で、やっぱり相当酔っているのだろうか。
酔っている二人が共通して言っていたのは、我々こそは昼寝の日本代表格。
昼寝ジャパンだと、繰り返しているということ。
俺は名前に「朝」の文字が入ってるけど、まったくの夜型人間。
朝はいつまででも眠っていられるが、昼前にはきっちり起き出すし、昼寝をすると本当に1日が終わるので、昼寝をしたことがない。だから昼寝の日本代表に選出される権利を持ってない。
そしてあとからわかったことだが、昼寝ジャパンはhill.ne.jp ということだった。
それで俺は、ここでしか言えないような話を「キング・アーサーのここだけの話」として残していくことになった。
俺の名前は小林朝太郎。
外人は<アサタロー>と発音しにくいらしいので、海外では<アーサー>と名乗っていたら、親しい外人仲間が<キング・アーサー>とニックネームをつけてくれた。
ニックネームがついてからずっとあとに知ったことだけど、俺はキング・カズと生年月日が一緒らしい。
このキングつながりは、いったいどんな偶然か。
以後、よろしくお見知りおきを!
(ごめんなさい。書き物に関してはまったくのシロートなので、堀田さんの締め方をマネしてしまいました)