キング アーサーのここだけの話
青い瞳のニコール
俺がバンコクに来た理由は、医学部の授業で使う学術書の複製品を買うためだった。
バンコクに来れば本物の100分の1ほどの金額で複製品が買えることを先輩から教えてもらい、夏休みには毎年、同級生からのオーダーを取って買い付けに来ていた。
同級生は俺にいくらかのマージンを払ったところで、授業で絶対に必要な学術書を格安で手に入れることができる。
俺は帰りの荷物が余分に増えるけど、マージンで学術書が買え、さらに海外旅行も楽しめる。
同級生と俺でウィンウィンの関係が成り立っていた。
もちろん分厚い学術書を買うのは旅の最終日。
先に買えば荷物になるし、買わずに本屋へ数日間通えば、それだけ値引き交渉も有利になってくるからだ。
騒動があった日の昼間、カオサンを歩いているとニコール・キッドマンに似たあの女と何度もすれ違った。
一緒にいる男は俺のことなんて知りもしないだろうが、ニコール似の女は短いながらも俺に言葉をかけたのだから見覚えくらいはあるはずだ。
それなのに、あのとき俺にウインクしたことなどまるでなかったかのように、ニコールは俺に気づく様子がない。
ニコールの青い瞳は俺ではなく、いつも違うどこかに向いていた。
夕方すれ違ったときも、青い瞳は俺に向くことはなく、俺はついに尾行することを決意した。
続く
次回の話/単なる尾行か、ストーカーか
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