LIFE,  TRIP

キング アーサーのここだけの話
ニコール・ロス

もともとは挑戦するために100ドルしか支払っていないが、旅人にとっての100ドルは相当な大金。

これは旅を続けていく上でデカイ損失だろう。

 

ビリヤードが下手なのに運よく積み上げられた大金を手に入れた勝者は、そのゲームでストップして帰っていった。

セコイやつだなあと俺は即座に思ったが、ビリヤードが下手でもあったので、分をわきまえているとも言える。

1ゲームでの勝ち逃げは、ルールとしてもまったく問題ない。

 

長髪の男は損したことなどなかったかのように上機嫌で、そして、ニコールの肩を抱いて上階のゲストハウスへと消えていった。

 

翌日、また書店で値引き交渉をしながらカオサンを徘徊していたが、二人とすれ違うことはなかった。

ニコールを見つけられないバンコクの街並みは、暗く沈んでいるように見えた。

俺は彼女の笑顔を求めてチャオプラヤ川まで足を運び、日が暮れるまで探し歩いた。

 

夜もまたあのバーへと行ってみたが、昨夜以上の盛況ぶりだった。

ビリヤードテーブルを囲む集団、もちろんその中心にも、大音量のダンスミュージックに腰を振る群衆の中にも、きっと誰よりも輝きを放つ彼女を発見することはできなかった。

ニコールを見つけられなかったことが気がかりで、その次の日は書店巡りの前に朝からバーへと足を向けた。

 

続く

次回の話/アンジェリーナの誘惑

前回の話/奢りで傲ったか

キング・カズと生年月日が一緒の1967年2月26日生まれ。外人は<アサタロー>と発音しにくいらしいので、海外では<アーサー>と名乗っていたら、親しい外人仲間が<キング・アーサー>とニックネームをつけてくれた。「アサタロウ」と日本で名乗ると「アソウ・タロウ?」と聞き間違いされることが多々ある。彼が幹事長のときは俺に<カンジチョー>のあだ名がつき、総理大臣になると<ソーリ>と呼ばれるようになったが、彼の総理大臣辞任後も俺の格下げはなく、いまでも<ソーリ>のあだ名は定着している。本業はコーディネーター。