キング アーサーのここだけの話
ニコール・ロス
もともとは挑戦するために100ドルしか支払っていないが、旅人にとっての100ドルは相当な大金。
これは旅を続けていく上でデカイ損失だろう。
ビリヤードが下手なのに運よく積み上げられた大金を手に入れた勝者は、そのゲームでストップして帰っていった。
セコイやつだなあと俺は即座に思ったが、ビリヤードが下手でもあったので、分をわきまえているとも言える。
1ゲームでの勝ち逃げは、ルールとしてもまったく問題ない。
長髪の男は損したことなどなかったかのように上機嫌で、そして、ニコールの肩を抱いて上階のゲストハウスへと消えていった。
翌日、また書店で値引き交渉をしながらカオサンを徘徊していたが、二人とすれ違うことはなかった。
ニコールを見つけられないバンコクの街並みは、暗く沈んでいるように見えた。
俺は彼女の笑顔を求めてチャオプラヤ川まで足を運び、日が暮れるまで探し歩いた。
夜もまたあのバーへと行ってみたが、昨夜以上の盛況ぶりだった。
ビリヤードテーブルを囲む集団、もちろんその中心にも、大音量のダンスミュージックに腰を振る群衆の中にも、きっと誰よりも輝きを放つ彼女を発見することはできなかった。
ニコールを見つけられなかったことが気がかりで、その次の日は書店巡りの前に朝からバーへと足を向けた。
続く