キング アーサーのここだけの話
アーサーの由来
突然降り出した豪雨を避けるため、1歩でも軒の奥へ入りたいと思う気持ちによって、目の前にあるものを見落としたのかもしれない。
排水の悪い街並み。
黒く日に焼けたあの長髪の男は1人床に座り、まもなく床上浸水ともなろうスコールを涼やかに眺めていた。
日常的に襲ってくる豪雨、そして洪水。
そんなことにはまったく動じないタイ人のような雰囲気を醸していた。
もしかしたら、日本人でも日系人でもないかもしれない。
そう頭の中でよぎりながら、俺は男に声をかけた。
「サワディーカー」
「ファック」一拍おいて、男から返ってきた。
「ソ、ソーリー。ハ、ハロー」俺は慌てて声をかけ直し、「ウェア・ディッド・ユー・・・」と続けたが、男の言葉に遮られた。
「質問があるやったら、最初に自分の名を名乗りいや」と関西訛りだった。
「ごめん、日本語できるんだ!? 俺は小林・・・」と名乗ってみたものの、相手は日本語を喋るとわかったいま、それ以外の質問は思い浮かばなかった。
いや、思い浮かんでいたが、聞くのを躊躇った。
「小林ってなんや。下の名前で言えや」男が発してくれたから、なんとか会話を続けることができた。
「朝太郎。下の名前は朝太郎」
「アサタローなんて、外人は発音しにくい名前やなあ・・・。ほいじゃ、アーサーって呼んでええか」
いきなりだが外人のようなニックネームをつけてもらい、俺はちょっと、いや、かなり嬉しかった。
「あの・・・俺は君のことをなんて呼べばいい?」
「シン。S・H・I・Nやない。S・I・Nのシンや」と男は応えた。
続く