LIFE,  TRIP

キング アーサーのここだけの話
もろくも欠けた冷静

ホテルの目の前にある7月22日ロータリーには外国人の人影はなく、日本ではあり得ないような荷物を高く、横にも広く積んだ小型バイクが時計回りに忙しく走りまわっていた。

 

「アーサーが荷物をピックアップしてくるあいだに、トゥクトゥクを捕まえとくわ」とシンさんは言い、ホテルの中までは入っていかなかった。

 

単に荷物をピックアップするだけだから時間はかからないはず。

俺もシンさんもそう考えた。

しかし、予想もしていなかったトラブルに俺は巻き込まれた。

 

ホテルのレセプションに預けていたバックパックの上蓋だけがなくなっていたのだ。

バックパックの中身を確かめたが、本体には手をつけられていないようだった。

盗まれた上蓋のポケットには、洗面道具と使い捨てコンタクトレンズの予備が数枚が入っているくらいだった。

だから諦めようと思えば諦めはついたのだが、上蓋なしのバックパックというのもなんとも情けない姿だった。

 

でもトラブルなんて、予想してて巻き込まれるもんでもない。

しかもそのトラブルは、レセプションに預けていた荷物の盗難だ。

犯人はホテル従業員しかいないだろう。

 

だがホテル従業員を、どれだけ問い詰めても知らぬ存ぜぬの一点張り。

それまで俺より上手な英語で受け答えしていたホテル従業員だったが、強気に出る俺に対し、ついには英語がわからないと言い出した。

 

あのときは、「英語がわからない」という言い逃れに思えたが、いま思い返してみると、思考が追いつかず乱暴な口調になっていた俺の英語の組み立てがムチャクチャだったのかもしれない。

俺はそれほど冷静さを欠いていた。

 

続く

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前回の話/水の都、バンコク

キング・カズと生年月日が一緒の1967年2月26日生まれ。外人は<アサタロー>と発音しにくいらしいので、海外では<アーサー>と名乗っていたら、親しい外人仲間が<キング・アーサー>とニックネームをつけてくれた。「アサタロウ」と日本で名乗ると「アソウ・タロウ?」と聞き間違いされることが多々ある。彼が幹事長のときは俺に<カンジチョー>のあだ名がつき、総理大臣になると<ソーリ>と呼ばれるようになったが、彼の総理大臣辞任後も俺の格下げはなく、いまでも<ソーリ>のあだ名は定着している。本業はコーディネーター。