キング アーサーのここだけの話
どこへでも自由に行ける
俺は「上蓋なしのイケテナイ姿で、バックパックを数日持ち歩くだけだ」と自分に言い聞かせ、待たせるのも悪いと思い、シンさんの元へと駆け寄った。
「なんや、おっちゃん背負って旅してるんか。そのバックパック、ヅラかぶり忘れたおっちゃんみたいやで」とシンさんは腹を抱えて笑った。
汚れてくたびれたバックパックは確かにおっちゃんに見えなくもないし、上蓋がないのもカツラをかぶり忘れた感じそのものだった。
「昼間、レセプションに預けてたのに盗まれた」
「ほな、もう売りに出てるな」
「売れるようなもんじゃないよ」
「あほう、バンコクやったらなんでも売れるし、なんでも買うことができる。ホンマ買い戻したいか?」
「自分のをお金出して買うの?」
「そうや」
「いくらで?」
「そんなん知らんよ。まあ、奴らがそれにいくらの価値を見出したかってことやな」
「お金を払ってまで取り戻したくはないけど、いくらの価値になったかは知りたい」
「ほな、確かめに行こか」
「どこに売ってるか知ってるの?」
「まあ、ナコーン・カーセムやろな」
「ナコーン・カーセムって?」
「盗品を売ってる市場や」
「近いの?」
「歩くには遠いけど、トゥクならすぐやな」と言い、路上で待機していたトゥクトゥクのドライバーと行き先変更の交渉をはじめた。
どのルートをまわってもええし、何ヶ所立ち寄ってもええから、ナコーン・カーセムにも連れてってくれ。
そのあとはプラトゥナーム市場、最後には長距離バスの乗り場まで、全部無料で連れて行っててや。
そんな無茶なリクエストを英語で伝えていた。
風体はみすぼらしく、衛生的とはかけ離れたドライバー。
教養のなさそうな人相から、英語を理解できているとはとても思えない。
しかし彼は「エニィプレイス!」と雄叫びを上げ、どこへでも自由に行けると興奮した。
続く