キング アーサーのここだけの話
風が心地いいトゥクトゥク
バックパックの上蓋を取り戻した俺の気持ちは複雑だった。
戻ってきたことは素直に嬉しいが、預けていたホテルの従業員によって盗まれる。
「この国は、油断も隙もならないよ」と俺は吐露した。
「隙があったって、奪われるのは余計なもんだけや。ここではホンマに大事なもんまで奪われんよ」とシンさんはサラリと答えた。
日の長い夏だが、市場の外はすっかり暗くなっていた。
「トゥ〜・レイ〜ト」場外の道路脇で待機していたトゥクトゥクのドライバーは俺たちを発見すると、舌足らずな発音で叫んだ。
この後にプラトゥナーム市場、そして長距離バスの乗り場へと俺たちを送り届ける。
プラトゥナーム市場へ行く前にダイヤモンド専門店、パール専門店、ゴールド専門店。
長距離バスの乗り場へ行く前にタイシルク専門店、高級茶葉専門店、テイラーメイド店へと立ち寄り、ドライバーは客を連れてきた見返りを店からもらう。
ドライバーの頭の中ではスケジュールが完成されていた。
閉店時間までに間に合わなければ、見返りがなくなってしまう。
ドライバーは細い路地の隙間という隙間を、追われるゴキブリのように駆け巡った。
蒸し暑いバンコクの夜だが、激走するトゥクトゥクの荷台では風が心地よく感じた。
煌々と明かりの灯るショップの前にトゥクトゥクを停めたドライバーは振り返り、俺たちの仕事は何かと尋ねた。
続く