キング アーサーのここだけの話
ニコールとの待ち合わせ
トゥクトゥクのドライバーは「時間がないから、店にいるのは1分間だけでいい」と俺たちに話し、ショップの扉を開けた。
そして、店中に響き渡る声を張った。
「政府の要人と医師を連れてきた」
俺たちは店内をしばしうろつくが、店主がドライバーに何か渡すのを確認すると静かに店を出る。
こんなコントみたいなことを繰り返しながら俺たちもドライバーも、それぞれの目的地を巡ることができた。
長距離バスターミナルに到着した頃には深夜になっていた。
スラータニーへ行くバスに乗り込み、出発を待つ。
長きにわたって客を乗せてきたバスはどこを見ても古ぼけていたが、シートカバーだけは数年前に換えられたようで、唯一違う時代のものとなっている。
しかし腰を下ろすともはやスプリング効果はなく、手応えなくスカッと底付く。
まだニコールがバンコクのどこかにいて、シンさんと一緒に島へ行くとすれば、このバスこそが待ち合わせ場所だと思っていた。
しかしついにニコールは現れず、夜の街をバスの古い車体はギシギシと軋むような音を立てながら、騒々しく走り出した。
続く
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