キング アーサーのここだけの話
ボン・ボヤージュ!
やがて船はまた進み出し、30分ほどで次の島へと到着した。
その港は、港と呼ぶにはあまりにも簡素。
そして上陸しても人の暮らしがあるようには思えないほど、ヤシの木が生い茂り、ジャングルを形成していた。
「アーサー、ここで降りんで」シンさんは屋根から3階のデッキへ、3階のデッキから2階のデッキへと1段ずつ飛び降りていった。
この島に通い慣れているシンさんとは対照的に、俺はただただ着いていくことしかできない。
俺は結局シンさんに何も聞けないまま、島の名前もわからないまま下船した。
港にはヤシの木で作った鳥居のようなゲートがあり、そこには<ボン・ボヤージュ!>と白いペンキで描かれていた。
一般的には島から船を見た面、つまりこれから船旅をしようとする者が見る文言だ。
船旅を終え島に到着したものに向かって<いい旅を!>というのも、いかがなものか。
しかしこれから島旅がはじまると思えば、間違いではないような気もする。
はっきりわかっているのは、ここでは常識が通用しないことが港の先端からすでにはじまっていた。
ひとつひとつに用心深くしている俺を見て、シンさんが微笑んだように見えた。
続く
次回の話/いい旅を、と誰もが言った
前回の話/屋根の上のアホウ
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