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ヒツジ飼いの冒険
第19話 隔離

レンガ造りの建物が並ぶ港町。

レオナルドが入った酒場には、チェアが存在していなかった。

誰もが立ち飲みでグラスを傾けている。

 

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客とバーテンダーを隔てるカウンターもレンガが丁寧に組まれたものだった。

レオナルドはそのカウンターに、買ったばかりの地図を広げ、それをつまみにチビチビとラム酒を煽っていた。

 

街を離れればすぐにでも大木の森が待っているというのに、木でできた製品がこの酒場にはほとんど見当たらない。

あるとすれば外扉と窓枠くらいだろうか。

そのすべての窓枠には錆びた金属製の格子が張り巡らされ、格子の間隔も5センチ角ぐらいと窮屈なので、牢屋にでも閉じ込められている気分になる。

 

「なにあれ? 誰かに閉じ込められてるの?」レオナルドは格子を揶揄するように、カウンター越しの店員に向かって言った。

「その通りさ。うちだけじゃねえ。すべての人が、閉じ込められてるんだよ」

見慣れぬ客の顔だから、この島の人間でないことくらいすぐにわかる。

異邦人が訪れると、決まって同じ質問が繰り返される。

店員はそれに飽きることなく、ややもすると自慢げに答えた。

 

長いカウンターにはほかに人がいないから、閉じ込められてるというのが本当のことなのか、誰か別の人に尋ねようがない。

しかし、どう考えてもおかしな話だ。

レオナルドは誰かに閉じ込められて店に入ったわけではない。

いくつかある店の中から選び、自ら率先して入ったのだ。

 

店員はレオナルドが広げている地図上に指を置いた。

「街はここ。そしてオレたちの行動が許されてるのは、ここまで」

 

島の端の方に街が小さく存在し、森との境界線に畑が広がる。

その畑までは行動が許容されている範囲のようだ。

広がると言っても、島の大きさからすれば半分程度。

7つあるホルス王国の島の中で一番小さな島。

その島の半分でしか行動できないから、閉じ込められているように感じるのではないだろうか。

 

「そのほかのエリアは、誰が?」

「ホルスの民が支配してるのさ。オレたちは、いつだって奴らの支配下にある。なにも自由はない」

「自由がないって、オレは自由にこの国へ入ってきたし、自由に出ていけるはずだよ」

「この国以外への出入りは自由さ」

「だったら、出て行けばいいじゃないか。自由を求めて」

「この国には、オレたちに自由はないけど、自由なんだよ」

「言ってる意味がわからない」

「なにからなにまで自由にはならないが、王国が定めたルールにさえ従っていれば、自由って意味さ。多少の不自由はあるが、自由なんだ」

「わかるような、わからないような。じゃあ、あの格子はなんで?」

「あれは王国軍の突然の攻撃に備えてさ」

「あんな格子で大丈夫なの?」

「十分さ。それにこの島に暮らす人々は、戦いを放棄したんだ。こっちから攻撃することも、過剰な防衛もしない。王国の民といざこざがあっても、身を小さくして攻撃が止むのを待つだけだ」

「それって、どうなの? ヤラレっぱなしってこと?」

「いざこざがある場合、絶対的にオレらが悪い。オレらが気づかないところで、なにかをしでかしちまってるんだ。奴らは自然の摂理を尊重して暮らしている」

 

自分たちは自然の中で暮らしながらも、知らず知らずのうちにその一番大事な自然の摂理から少し距離を置いてしまっている。

 

いつもその溝が諍いの火種となると言いながら、バーテンダーはシェイカーを振った。

レオナルドは地図上の境界線辺りにヒツジたちがいるのではないかと気づいた。

「もし、境界線を超したら?」

 

ヒツジ飼いの冒険(第20話)へ続く

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*ヒツジ飼いの冒険は毎週日曜日12:00公開を予定しています。

カヌーイストなんて呼ばれたことも、シーカヤッカーと呼ばれたこともあった。 伝説のアウトドア雑誌「OUTDOOR EQUIPMENT」の編集長だったこともあった。いくつもの雑誌編集長を経て、ライフスタイルマガジン「HUNT」を編集長として創刊したが、いまやすべて休刊中。 なのでしかたなくペテン師となり、人をそそのかす文章を売りながら旅を続けている。