LIFE,  TRIP

キング アーサーのここだけの話
ペールグリーンの紙切れ

土煙りを巻き上げながら、ピックアップ・トラックが港町へと戻ってきた。

広場には、まだ船から降りてきた客が数名残っている。

あのユダヤ系の女は見当たらない。

 

シンさんは数台のピックアップ・トラックをやり過ごした。

広場でタクシーを待つ客より先に、手前で割り込むというのに気が引けたのだろうか。

意外と日本人らしい一面があるようだ。

 

広場に客がいなくなったのを確認するとシンさんは立ち上がり、戻ってきたピックアップ・トラックに向かって手を振った。

指先には、名刺ほど小さなペールグリーンの紙切れがあった。

 

ドライバーはピックアップ・トラックから降りることなく、俺たちが荷台に乗りこむのを確認すると、会話を交わすこともなくアクセルを踏み込んだ。

「なんで、なにも聞かないの?」

「チケットの色で行き先がわかったんやろ」

「何それ」

「スラータニーのボート乗り場にあったからもらってきたんや。これ使えるでえ。」

 

チケットといっても、単にカラー用紙にコピーしたものを小さく切っただけの代物。

しかも製紙工程が悪いのか、ただ単に古くなっているのか、色ムラのある紙。

 

それぞれのバンガローが発行してるフライヤーみたいなもので、英語でインフォメーションが表記してある。

チケットを持っていればタクシーは発行しているバンガローへ案内し、港からのタクシー代金をバンガローオーナーが支払う仕組みになっている。

 

識字のないドライバーでも、バンガローごとに用紙の色が違うので、客と会話を交わすことなく送り届けることができる画期的なシステムだった。

 

続く

次回の話/金子光晴って、誰?

前回の話/届いていた大きな荷物

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最初の話/はじまりのはじまり

 

 

キング・カズと生年月日が一緒の1967年2月26日生まれ。外人は<アサタロー>と発音しにくいらしいので、海外では<アーサー>と名乗っていたら、親しい外人仲間が<キング・アーサー>とニックネームをつけてくれた。「アサタロウ」と日本で名乗ると「アソウ・タロウ?」と聞き間違いされることが多々ある。彼が幹事長のときは俺に<カンジチョー>のあだ名がつき、総理大臣になると<ソーリ>と呼ばれるようになったが、彼の総理大臣辞任後も俺の格下げはなく、いまでも<ソーリ>のあだ名は定着している。本業はコーディネーター。