LIFE,  TRIP

キング アーサーのここだけの話
野上真一は悪魔の生まれ変わり

あんなにか細い、単なる棒のようなパドルのひと漕ぎひと漕ぎで、カヌーは前へ前へと進んだ。

カヌーは推進力を増すごとに、安定していった。

 

その乗り心地に慣れ気持ちが落ち着くと、俺は質問した。

「バンコクのカフェで、髪を切ってたよね」

「ああ、そうや」

「あれって、なんかの許可とか得てるの?」

「店からは許可もらったで」

「そうじゃなくってさあ、国とか保健所とか」

「人の髪を使った彫刻をしとっただけやがな。芸術作品を作るんに、誰かの許可がいるんか?」

あまりに強引なロジックに、俺はしばし絶句した。

 

「あの・・・髪を切られてた女の人とは、どういう関係?」そして、無理やり言葉を紡ぎ出した。

「カヌー乗りは過去を振り返らんのやけど、なにが聞きたい?」

「いやさあ、見ず知らずの旅人に、大事な髪の毛を切らせることってあるのかなあって」さすがにニコールが帰国したばかりで起こりうるはずもない浮気を、俺は疑った。

 

「僕は船乗りや。しかも1日漕いでも100キロと進まん小舟の船長や」

「で、シンさんはなにが言いたいの?」

「古今東西、船乗りと言えば港港に女がいるもんや。だったら僕には、100キロごとに彼女がおっても、おかしなことないやろ」

悪魔の生まれ変わり、野上真一の論法に、俺は再び絶句した。

*著者は資料に基づく回顧録であると主張していますが

編集サイドではフィクションと判断しています。

登場する人物・団体・名称等は架空であり

実際のものとは関係ありません。

続く

次回の話/達成感に満たされた俺

前回の話/朽ちてしまいそうな木舟

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最初の話/はじまりのはじまり

キング・カズと生年月日が一緒の1967年2月26日生まれ。外人は<アサタロー>と発音しにくいらしいので、海外では<アーサー>と名乗っていたら、親しい外人仲間が<キング・アーサー>とニックネームをつけてくれた。「アサタロウ」と日本で名乗ると「アソウ・タロウ?」と聞き間違いされることが多々ある。彼が幹事長のときは俺に<カンジチョー>のあだ名がつき、総理大臣になると<ソーリ>と呼ばれるようになったが、彼の総理大臣辞任後も俺の格下げはなく、いまでも<ソーリ>のあだ名は定着している。本業はコーディネーター。