キング アーサーのここだけの話
達成感に満たされた俺
先ほどまで無風だったのに、向かい風が急に強くなったように感じた。
その向かい風の感触とともに、視覚的にもカヌーが進まなくなっている。
「あのスコール、こっちに向かってくるなあ」とシンさんが言った。
確かに、視界の遠い先は雨雲に覆われている。
「もう、戻る?」俺は荒天を恐れた。
「このフネじゃあ、戻った方がいいやろな」と言い終えた頃には、シンさんはカヌーの進行方向を陸へと変えていた。
向かい風から追い風へと変わったので、カヌーは加速した。
ビーチ際ではサーフィンのようになめらかに横滑りしていき、砂浜に突き刺さるようにして止まった。
戻りを決断したタイミングはドンピシャだったようで、上陸すると空からゴロゴロという音が鳴りはじめた。
スコールが降りはじめる前にと、俺たちは駆け足でバンガローの母屋に逃げ込んだ。
はじめて乗ったカヌー。
わずか30分にも満たないショートツーリング。
しかもパドルすら握っていないが、荒天前に戻ってこられたので、俺は達成感に満たされていた。
続く
次回の話/突然降り出したスコール
前回の話/野上真一は悪魔の生まれ変わり
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