FOOL

ヒツジ飼いの冒険
第23話 視線

食に集中したレオナルドは、胃が満たされると途端に眠気に襲われた。

ヒツジたちも同じようで、地面に臥しはじめた。

ただし思い思いの場所に寝るのではなく、レオナルドを中心にひと塊りとなっていた。

 

<前話を読み返すには、こちらをクリック>

 

ヒツジたちは怯えているようでもあり、萎縮するレオナルドを守るためでもあるようだった。

互いに戦慄を覚えたのは、どこか遠くからの視線を感じていたからに違いない。

気に留めないようにしようとすればするほど視線を意識し、また本当に忘れかけたとき上空にその影を見せた。

あのミミズクとは違う影。

レオナルド一行を見張っているのは、どうやらミミズクだけではないようだ。

 

寝ても快眠を得られないレオナルドは、恐怖に支配されるくらいなら、立ち向かうことを決意する。

ヒツジたちを起こさないようにゆっくりと立ち上がった。

しかしヒツジたちの中心にいたレオナルドが、この密集した群れを起こさずにかき分けて進むには無理がある。

しかも立ち上がったレオナルドは上空からの視線だけでなく、ヒツジたちからの視線も感じた。

それは脅かすような視線ではなく、勇気を焚きつける視線。

ヒツジたちの気持ちも固まっていることがわかる視線だった。

 

「行こうか」

レオナルドが誰に言うでなく小さな声を上げると、すべてのヒツジは声を上げて立ち上がった。

 

モーセのような杖を持っていなかったが、葦の海が割れて陸地が見えたようにヒツジたちの群れが割れ、レオナルドが目指すべき方向が定まった。

確かにその方向から、一番強い視線を感じる。

ヒツジたちの群れが割れてできた道を進み終えると、割れていた葦の海が再び元の海に戻ったように、ヒツジの雲海がレオナルドの背後に広がった。

その雲海はレオナルドから離れることなく、ピタリとついてきた。

 

レオナルドはついに、越してはならない目に見えない境界線を越してしまった。

 

ヒツジ飼いの冒険(第24話)へ続く

ヒツジ飼いの冒険(第1話)から読む

 

*ヒツジ飼いの冒険は毎週日曜日12:00公開を予定しています。

カヌーイストなんて呼ばれたことも、シーカヤッカーと呼ばれたこともあった。 伝説のアウトドア雑誌「OUTDOOR EQUIPMENT」の編集長だったこともあった。いくつもの雑誌編集長を経て、ライフスタイルマガジン「HUNT」を編集長として創刊したが、いまやすべて休刊中。 なのでしかたなくペテン師となり、人をそそのかす文章を売りながら旅を続けている。