キング アーサーのここだけの話
日本語を使うな
席のなくなったシンさんは、向かい合っていた俺の横にきて、カウチの肘掛に腰を降ろした。
「彼女さあ・・・」と俺はシンさんに日本語で話しかけた。
「ドゥー・ノット・ユーズ・ジャパニーズ」シンさんは間髪入れずに言った。
彼女の理解できない言語で相談していると怪しく感じるからだと説明してくれた。
その説明に同感した彼女は、俺に向かってウインクしながら言った。
「ドゥー・ノット・ユーズ・ジャパニーズ」
一瞬にして打ち解けたが、だからこそ自己紹介もしないまま話が進んでいった。
「彼女さあ、いま映画に出てる、女優に似てるね」俺は英語で仕切り直した。
「なんてタイトルの映画に?」シンさんと彼女が声を揃えた。
「え〜と、レオン」
シンさんと彼女は顔を見合わせ、そんな映画を知らないと、また声を揃えた。
「ジャン・レノが殺し屋役の映画で・・・」
「ああ、ザ・プロフェッショナルのことか」とシンさんは言った。
映画のタイトルが原題と邦題で異なることはよくあるが、原題のザ・プロフェッショナルに対し、邦題のレオンではあまりに違いすぎる。
ジャン・レノとナタリー・ポートマンの2人が主人公であり、2人がプロフェッショナルな殺し屋なのに、レオンというジャン・レノの役柄だけを持ち上げるのはいかがなものか。
あえて2人のどちらかを主とするならば、プロフェッショナルな殺し屋に成長していくナタリー・ポートマンの演じたマチルダではないか。
シンさんの解釈に、彼女は同意見だった。
続く
次回の話/彼女の名前はナタリー
前回の話/突然降り出したスコール
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