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ヒツジ飼いの冒険
第35話 動揺

目の前は暗雲と緑に覆われた大地で二分していた。

鳥たちはいなくなった。

すべての鳥が町へ攻撃に向かったのかといえば、そうでもなさそうだ。

鳥たちを見ることはなくなっただけで、気配を感じる。

 

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その気配は町の方向だけでなく、これから進んで行こうとする前方にも。

そしてレオナルドたちを監視する目は四方八方に。

 

ヒツジたちはそれが気にならないのか、気にしてもしようがないと考えているのか、意識は監視する視線になく、黙々と進んでいる。

いつもなら草を食み、なかなか前へ進もうとしないのに、今回ばかりは急ぎ足だ。

先頭に立つカルボにおいていかれまいと歩みを進めていくヒツジたち。

 

遅れるヒツジがいないので、レオナルドはヒツジの予期せぬ行動に神経を尖らせる必要がない。

その分、四方八方から注がれる視線が気になってしかたがなかった。

「これってどうにかならないもんかな」たまらなくなった、レオナルドはカルボの背中に乗ってはるか前方を進んでいるルカに向かって言った。

 

「どんなに監視されていようと、気が乱れなければ、心の奥底までは見透かされない」聞こえてきたのは以外にも後ろからの声。

ジャックだった。

 

レオナルドはその声に心は反応したが、体は反応を見せないように努めた。

これから起きることへの期待より、不安が優ってきたことをジャックに見透かされていた。

歩みは止めず、人知れず目を伏せ気持ちを入れ替えていると羽音が聞こえた。

ワサワサとした大きな羽音だった。

強い風圧も感じたので素早く目を開くと、眼前にはルカがいた。

 

下を向いたクチバシをレオナルドの鼻先につけるほど近づいて羽ばたいていた。

その距離感で目を合わせ、ルカは言った。

「好奇心は何にも優る。好奇心は何にも優る」

 

レオナルドは繰り返し言うルカの動揺を感じ取った。

王国の掟を犯して侵入を謀ったレオナルド。

それを抑えず、侵入を許したルカ。

 

ルカにもなんらかの考えがあっての行動だろうが、王国の住民である自らも王国の掟を破ったのだから、動揺していないわけがない。

鼻先につけてきたのは、レオナルドのためだけでなく、ルカ自らも心を冷静に保つためだったのだろう。

「どんなに監視されていたって大丈夫。もう心乱されない」レオナルドは近すぎるルカの目に視線を合わせて言った。

「マイ・ファーザー待ってる」

ルカは力強く言うと、向きを変えカルボの元へ飛んで行った。

 

 

ヒツジ飼いの冒険(第36話)へ続く

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*ヒツジ飼いの冒険は毎週日曜日12:00公開を予定しています。

カヌーイストなんて呼ばれたことも、シーカヤッカーと呼ばれたこともあった。 伝説のアウトドア雑誌「OUTDOOR EQUIPMENT」の編集長だったこともあった。いくつもの雑誌編集長を経て、ライフスタイルマガジン「HUNT」を編集長として創刊したが、いまやすべて休刊中。 なのでしかたなくペテン師となり、人をそそのかす文章を売りながら旅を続けている。