LIFE,  TRIP

キング アーサーのここだけの話
単なる尾行か、ストーカーか

当時はまだストーカーなんて言葉はなく、俺にしてみれば、それは尾行だった。

でもいまになって考えりゃ、明らかにストーカー行為だ。

 

二人はバンランプー市場の屋台で食事をすませると、通りに面した1階部分は壁がなくオープンとなった、ヒッピー風情の集まるバーへ入っていった。

バーは2階までが吹き抜けになっていて、3階以上はゲストハウスになっていた。

混みいった店内だが、美人のニコールはひときわ目立っていたから、簡単に探すことができた。

一緒にいる長髪の男は確実に東洋人。

各国の東洋人を並べてみても、なんとなく日本人あるいは日系人という区別はつく。

男は黒々と日に焼けていたが、日本の血はどこかに流れているだろうと感じていた。だが、日本人であるという確証は持てなかった。

尾行しているときに盗み聞きした二人の会話は、すべて流暢な英語だったからなおさらだ。

まあそもそも、俺は男に興味があったのではなく、ニコールのウインクに刺さっただけだ。

しかし尾行を続けているうちに、こんな美女がなぜ、背のちっちゃな日本人ぽい男と一緒にいるのか。

それが解明できれば、俺にも外人の彼女ができるチャンスがあるのかもしれない。

そんな理由で、男の方にも少しずつ興味を持ちはじめていた。

 

続く

次回の話/100ドルを賭けたビリヤード

前回の話/青い瞳のニコール

キング・カズと生年月日が一緒の1967年2月26日生まれ。外人は<アサタロー>と発音しにくいらしいので、海外では<アーサー>と名乗っていたら、親しい外人仲間が<キング・アーサー>とニックネームをつけてくれた。「アサタロウ」と日本で名乗ると「アソウ・タロウ?」と聞き間違いされることが多々ある。彼が幹事長のときは俺に<カンジチョー>のあだ名がつき、総理大臣になると<ソーリ>と呼ばれるようになったが、彼の総理大臣辞任後も俺の格下げはなく、いまでも<ソーリ>のあだ名は定着している。本業はコーディネーター。