LIFE,  TRIP

キング アーサーのここだけの話
アンジェリーナの誘惑

午前中、バーはカフェとして営業し、ゲストハウスの宿泊者向けにパンとお粥だけの無料朝食を提供していた。

表通りから遠巻きに中を覗いてみても、奥の方の様子はつかめない。

俺はゲストハウスの空室確認をする客のふりをして、カフェの最深部にあるレセプションへと向かった。

ホールを歩いている時、用心深くあたりを見渡すが、青い瞳を発見することができない。

 

そんなとき「メイ、アイ」と黒いタイトのミニスカートを履いたスタッフに声をかけられた。

この数日、ここを訪れているが、俺がチェックした限りでは唯一の女性スタッフだ。

「今夜、泊まれるかな?」俺はとっさに聞いた。

「それって、私を誘ってるの?」大きな鼻が印象的な彼女は笑いながら「ジョークよ」と続けた。

よく言えば、厚めの唇がアンジェリーナ・ジョリーに似ている。

タイ人特有の舌足らずで鼻にかかった発音の英語だった。

 

予約状況を確認したアンジェリーナ似の女は、いまのところ満室だという。

ただ今夜の宿泊代を納めてない部屋が1つだけある。

今夜もまた泊まっていくなら12時のチェックアウト前には宿代を支払いにくるし、泊まらないとしても外は暑いからエアコンの効いた部屋に12時ギリギリまでいるだろう。

「いずれにしても12時にはわかるから、そのころまた戻ってきて」と言って、俺に目配せをした。

ニコールの時と違って、それはまったく俺の心に響かないウインクだった。

 

続く

次回の話/旅の洗礼

前回の話/ニコール・ロス

 

キング・カズと生年月日が一緒の1967年2月26日生まれ。外人は<アサタロー>と発音しにくいらしいので、海外では<アーサー>と名乗っていたら、親しい外人仲間が<キング・アーサー>とニックネームをつけてくれた。「アサタロウ」と日本で名乗ると「アソウ・タロウ?」と聞き間違いされることが多々ある。彼が幹事長のときは俺に<カンジチョー>のあだ名がつき、総理大臣になると<ソーリ>と呼ばれるようになったが、彼の総理大臣辞任後も俺の格下げはなく、いまでも<ソーリ>のあだ名は定着している。本業はコーディネーター。