LIFE,  TRIP

キング アーサーのここだけの話
冷えていないビール

パリヨレくんにこれ以上問い詰めても意味がない。

彼もかなり迷惑している表情だ。

カフェスタッフの給料は時給制ではなく、個人の売り上げとも聞いたことがある。

俺はコカコーラをオーダーすると、彼は顔色を一変させバックヤードへと駆け出した。

走らなくてもいいのにと思ったが、彼本来の仕事に戻れたことがうれしかったのだろう。

 

パリヨレくんが運んできたコカコーラのショートボトルは、手渡される前から冷えていなことがわかった。

まったく汗をかいていないショートボトルには、なぜか2本のストローが刺してあった。

ストローが細くとも2本あれば多く飲み込めるいうことなのか、それともパリヨレくんが慌てただけなのか。

 

俺はボトルを受け取ると、軒下のオープンペースへと向かった。

いまもやはりニコールは見当たらないが、あの男はさっきと同じ場所にいた。

背中しか見えないが、髪を低い位置で1本に結びハットをかぶったスタイルは、はじめてジュライホテルで見かけたときと同じだ。

テーブルにはビールの入ったグラスが置かれていたので、昼から飲んでいることがわかった。

俺のコカコーラと同じく、ビールも冷えていない様子だった。

冷えていないコーラならギリギリ我慢できるが、ジョッキに汗もかいていない冷えていないビールは真っ平御免だ。

そう思ったが、男は赤い髪の女性が座っている背中越しに立ち、赤い頭を撫でながら談笑し、それはそれで楽しそうな光景だった。

 

続く

次回の話/旅人が交差する世界の中心

前回の話/旅の洗礼

 

キング・カズと生年月日が一緒の1967年2月26日生まれ。外人は<アサタロー>と発音しにくいらしいので、海外では<アーサー>と名乗っていたら、親しい外人仲間が<キング・アーサー>とニックネームをつけてくれた。「アサタロウ」と日本で名乗ると「アソウ・タロウ?」と聞き間違いされることが多々ある。彼が幹事長のときは俺に<カンジチョー>のあだ名がつき、総理大臣になると<ソーリ>と呼ばれるようになったが、彼の総理大臣辞任後も俺の格下げはなく、いまでも<ソーリ>のあだ名は定着している。本業はコーディネーター。