キング アーサーのここだけの話
冷えていないビール
パリヨレくんにこれ以上問い詰めても意味がない。
彼もかなり迷惑している表情だ。
カフェスタッフの給料は時給制ではなく、個人の売り上げとも聞いたことがある。
俺はコカコーラをオーダーすると、彼は顔色を一変させバックヤードへと駆け出した。
走らなくてもいいのにと思ったが、彼本来の仕事に戻れたことがうれしかったのだろう。
パリヨレくんが運んできたコカコーラのショートボトルは、手渡される前から冷えていなことがわかった。
まったく汗をかいていないショートボトルには、なぜか2本のストローが刺してあった。
ストローが細くとも2本あれば多く飲み込めるいうことなのか、それともパリヨレくんが慌てただけなのか。
俺はボトルを受け取ると、軒下のオープンペースへと向かった。
いまもやはりニコールは見当たらないが、あの男はさっきと同じ場所にいた。
背中しか見えないが、髪を低い位置で1本に結びハットをかぶったスタイルは、はじめてジュライホテルで見かけたときと同じだ。
テーブルにはビールの入ったグラスが置かれていたので、昼から飲んでいることがわかった。
俺のコカコーラと同じく、ビールも冷えていない様子だった。
冷えていないコーラならギリギリ我慢できるが、ジョッキに汗もかいていない冷えていないビールは真っ平御免だ。
そう思ったが、男は赤い髪の女性が座っている背中越しに立ち、赤い頭を撫でながら談笑し、それはそれで楽しそうな光景だった。
続く
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