LIFE,  TRIP

キング アーサーのここだけの話
旅人が交差する世界の中心

男は別の女と一緒にいる。

「ニコールのいない隙にウワキかよ」と思ったが、よくよく考えれば、彼女はいま1人きりでいるということだ。

俺はそれをチャンスと捉え、街で彼女を探そうとカフェを飛び出した。

脇を抜けて行くときに一瞥すると、男は女性の髪の毛を切っているように見えた。

 

まさか。

しかも、オープンカフェの軒先で。

しかし男にかまっている時間ではない。

俺は振り返って確認することなどしなかった。

 

カオサン通り、タナオ通り、ランブトリ通り、チャクラポン通り、ブラスメン通り、碁盤の目のようになった通りを歩きまわった。

旅人が立ち寄りそうなところは舐めるようにチェックした。

 

当時、航空券が世界でもっとも安く手に入ったこのあたりは、旅人が旅を続ける上で必ず通る交差点、世界の中心地だった。

ゆえに旅から得た世界の情報も集まっていた。

 

このエリアは、旅をする上で必要なものはなんでも手に入った。

なんでも。

バックパックや南京錠、渡航ビザはもちろんのこと、偽造ビザも発給していた。

学割を使うための偽造の学生証、旅先で有利に働くための偽造の卒業証書となんでも売っている。

アメリカに行ったことがなくても、英語ができなくても、足し引き算や文字の読み書きができなくても、ここにくればハーバードでもMITでも、求めればどの大学の学生にも卒業生にもなれた。

 

続く

次回の話/グーグルなき時代

前回の話/冷えていないビール

キング・カズと生年月日が一緒の1967年2月26日生まれ。外人は<アサタロー>と発音しにくいらしいので、海外では<アーサー>と名乗っていたら、親しい外人仲間が<キング・アーサー>とニックネームをつけてくれた。「アサタロウ」と日本で名乗ると「アソウ・タロウ?」と聞き間違いされることが多々ある。彼が幹事長のときは俺に<カンジチョー>のあだ名がつき、総理大臣になると<ソーリ>と呼ばれるようになったが、彼の総理大臣辞任後も俺の格下げはなく、いまでも<ソーリ>のあだ名は定着している。本業はコーディネーター。