キング アーサーのここだけの話
旅人が交差する世界の中心
男は別の女と一緒にいる。
「ニコールのいない隙にウワキかよ」と思ったが、よくよく考えれば、彼女はいま1人きりでいるということだ。
俺はそれをチャンスと捉え、街で彼女を探そうとカフェを飛び出した。
脇を抜けて行くときに一瞥すると、男は女性の髪の毛を切っているように見えた。
まさか。
しかも、オープンカフェの軒先で。
しかし男にかまっている時間ではない。
俺は振り返って確認することなどしなかった。
カオサン通り、タナオ通り、ランブトリ通り、チャクラポン通り、ブラスメン通り、碁盤の目のようになった通りを歩きまわった。
旅人が立ち寄りそうなところは舐めるようにチェックした。
当時、航空券が世界でもっとも安く手に入ったこのあたりは、旅人が旅を続ける上で必ず通る交差点、世界の中心地だった。
ゆえに旅から得た世界の情報も集まっていた。
このエリアは、旅をする上で必要なものはなんでも手に入った。
なんでも。
バックパックや南京錠、渡航ビザはもちろんのこと、偽造ビザも発給していた。
学割を使うための偽造の学生証、旅先で有利に働くための偽造の卒業証書となんでも売っている。
アメリカに行ったことがなくても、英語ができなくても、足し引き算や文字の読み書きができなくても、ここにくればハーバードでもMITでも、求めればどの大学の学生にも卒業生にもなれた。
続く