キング アーサーのここだけの話
腕時計で知る月齢
万が一にもニコールが一緒だったら、最高の旅になりそうだ。
「俺は、島で2泊できそうかな」とシンさんに告げた。
「おお、ちょうどええやん。2泊目の夜がフルムーンパーティやから、ホンマもんのレイヴを楽しんでいけるやん」
当時の日本ではまだレイヴなんて誰も知らず、ホンマもんがなにを意味しているのか、まったく理解していなかった。
ただ腕に巻いたGショックを覗き込むと月齢がわかった。
明後日が満月だったので、フルムーンパーティは満月に行われる何らかの宴であると想像できた。
「レイヴね、面白そうだねえ」と意味もわかっていないのに、知ったかぶりをしてやり過ごす。
「ほいじゃ、荷物まとめな。アーサーもこのホテルに泊まっとるんか?」
「ここには泊まってないけど、今夜から泊まるつもりだったから荷物はまとめてあって、昨夜泊まったホテルのレセプションに預けてある」
「どこのホテルや?」
シンさんはあの朝、俺とすれ違ったことを認識していない。
「ニュー・エンペラー・・・」
「やっぱジュライは出たんや」
いや、騒動の中、逃げるようにして出ていったシンさんは、しっかりと俺を確認し記憶していた。
俺は、あの男がシンさんだったとは気づかなかったふりをした。
「ジュ、ジュライホテル知ってるんだあ? マニアックすぎて知らないかと思って、近くのホテルの名前言っちゃったよ」
「旅人で知らんやつ、おらんやろ。あそこにまだおったとは、アーサーも相当なアウトローやな」と笑ったが、俺にはその笑いが理解できなかった。
「なんで、ジュライホテルに泊まるとアウトローなの?」
「あっこに泊まる目的は、ひとつしかないやろ」と言って目尻にシワを寄せ、それ以上の説明はしなかった。
「そ、そうね・・・」と俺もぎこちなく頬を緩めた。
続く