LIFE,  TRIP

キング アーサーのここだけの話
腕時計で知る月齢

万が一にもニコールが一緒だったら、最高の旅になりそうだ。

「俺は、島で2泊できそうかな」とシンさんに告げた。

「おお、ちょうどええやん。2泊目の夜がフルムーンパーティやから、ホンマもんのレイヴを楽しんでいけるやん」

当時の日本ではまだレイヴなんて誰も知らず、ホンマもんがなにを意味しているのか、まったく理解していなかった。

ただ腕に巻いたGショックを覗き込むと月齢がわかった。

明後日が満月だったので、フルムーンパーティは満月に行われる何らかの宴であると想像できた。

「レイヴね、面白そうだねえ」と意味もわかっていないのに、知ったかぶりをしてやり過ごす。

「ほいじゃ、荷物まとめな。アーサーもこのホテルに泊まっとるんか?」

「ここには泊まってないけど、今夜から泊まるつもりだったから荷物はまとめてあって、昨夜泊まったホテルのレセプションに預けてある」

「どこのホテルや?」

シンさんはあの朝、俺とすれ違ったことを認識していない。

 

「ニュー・エンペラー・・・」

「やっぱジュライは出たんや」

いや、騒動の中、逃げるようにして出ていったシンさんは、しっかりと俺を確認し記憶していた。

俺は、あの男がシンさんだったとは気づかなかったふりをした。

「ジュ、ジュライホテル知ってるんだあ? マニアックすぎて知らないかと思って、近くのホテルの名前言っちゃったよ」

「旅人で知らんやつ、おらんやろ。あそこにまだおったとは、アーサーも相当なアウトローやな」と笑ったが、俺にはその笑いが理解できなかった。

「なんで、ジュライホテルに泊まるとアウトローなの?」

「あっこに泊まる目的は、ひとつしかないやろ」と言って目尻にシワを寄せ、それ以上の説明はしなかった。

「そ、そうね・・・」と俺もぎこちなく頬を緩めた。

 

続く

次回の話/泊まる目的

前回の話/法律の外にある楽園

キング・カズと生年月日が一緒の1967年2月26日生まれ。外人は<アサタロー>と発音しにくいらしいので、海外では<アーサー>と名乗っていたら、親しい外人仲間が<キング・アーサー>とニックネームをつけてくれた。「アサタロウ」と日本で名乗ると「アソウ・タロウ?」と聞き間違いされることが多々ある。彼が幹事長のときは俺に<カンジチョー>のあだ名がつき、総理大臣になると<ソーリ>と呼ばれるようになったが、彼の総理大臣辞任後も俺の格下げはなく、いまでも<ソーリ>のあだ名は定着している。本業はコーディネーター。