キング アーサーのここだけの話
見合わない労働対価
俺のバックパックの上蓋が5円で売られているのはショックだった。
本当の持ち主が目の前にいても、店員は平然と値をつけた。
盗みであっても労力には変わらない。
もしかしたら普通の労働より、もっと別の神経を使うかもしれない。
その最低限の賃金が5円ということだったのだろうか。
「プリーズ10%ディスカウント」と、シンさんは間を空けずに言った。
「OK」店員はバツが悪そうに応えた。
1バーツは100サタン。
1バーツから10%のディスカウントなので、90サタンでの取引という交渉に成功した。
しかしシンさんは交渉の手を緩めず「モア・ディスカウント・プリーズ」と言って店員の目を覗き込んだ。
「OK。50サタン」店員はいきなり50%ディスカウントの数字を伝えてきた。
「モア・ディスカウント・プリーズ」
「OK。25サタン」
「モア・ディスカウント・プリーズ」
少しばかりの沈黙の時間が流れた。
「OK。OK。OK。イッツ・フリー」店員は目を背けたまま、投げやりに言った。
「サンクス・ア・ロット! コップ・クン・クラップ」シンさんは感謝の言葉を異言語で重ね、店員の前で合掌した。
労働対価には見合わないだろうが、交渉によって成立した取引なので、店員の最低限のプライドは保たれたということなのだろうか。
その辺の気持ちを俺はいまだに理解できないでいるが、シンさんがタフ・ネゴシエーターだということを十分に納得した瞬間だった。
続く