FOOL

ヒツジ飼いの冒険
第17話 命名

船から降りた昨日は多くのヒツジを連れ歩いたはじめての日だったので、なるべく早く街を離れたいと思っていた。

天候が下り坂だったのも、そう思わせた一因だ。

それもあって、まったく食料を買っていなかった。

 

<前話を読み返すには、こちらをクリック>

 

あたりを見渡せば、飲み水は十分に確保できそうだ。

ヒツジたちの食料となる牧草もある。

しかし、レオナルドが食べられそうなものは全然見当たらない。

 

「留守番できるか?」ヒツジに問いかけてみる。

近くにいた数頭のヒツジは言葉を理解しているかのように、一旦レオナルドのことを見つめ、また視線を地面に戻し、大丈夫とばかり頷くように頭を上下に揺らしながら草をはみはじめる。

 

「一応、全員に声をかけていくか・・・。そうだ、ついでに名前を決めてあげよう」とつぶやき、一番遠くにいるヒツジのところに歩み寄った。

 

レオナルドは地面に膝をつき、顔の黒いヒツジの額を撫で、耳をさすりながら言った。

「ちょっと行ってくるけど、おとなしく留守番してるんだぞ・・・う〜んキミの名前は・・・俺から隠れようとして一番遠くにいたから、ハイド」

 

ハイドと名付けられたヒツジは一瞬キョトンとしたが、レオナルドが「ハイド、よろしくな」というと、頭を揺らした。

 

続いてハイドのとなりで草をはんでいたヒツジの体に手を伸ばし、ブラッシングするように毛並みに指を通した。

毛は思っていた以上にふわふわで、体は細身。

軽そうなその子を見てもっとも軽いガス、ヘリウムを思い浮かべた。

 

「ヘリウムなんて名前じゃ色気ないよなあ」と言いながらもう一度毛に指を通して挨拶をした。

「キミも留守番できるよな、ヘレン」。ヘリウムと語呂が似ていながら、名前としてもヘレンなら上出来だ。

 

考えてみれば、さっき名前をつけたハイドだって、ハイドロゲンを短くしたような感じ。

しかも1番目につけた名前。

原子番号の1番はハイドロゲンで、2番はヘリウム。

レオナルドは立ち上がり、3、4、5、6・・・と頭数を数えはじめた。

 

ヒツジが群れている毛の塊は数えにくかったが、多く見積もっても100頭まではいなさそうだ。

1頭ずつに元素名をもとにした名前をつけていっても足りるだろう。

 

だからといってこれから先、安易に原子番号順に名前をつけていくのではない。

1頭目、2頭目が偶然にも思いついた名前が原子番号順だっただけ。

これから先も目を見て話しかけ、そのヒツジのイメージから想像した名前を元素名に似たものにしようと考えた。

 

群れの中で一番生まれたてと思われる子ヒツジに、元素名が新しいに由来のある<ネオン>。

彫りが深くてギリシア彫刻を思わせるヒツジに<マグネシア>。

銀色がかった毛色の珍しいヒツジに<シルビー>。

プラチナのようなキレイな毛色のヒツジに<プラト>。

 

1頭ずつに挨拶をかわし、きちんとそのヒツジに合った名前をつけ、同時にしばしの別れを告げた。

 

ヒツジは全部で88頭いた。

これから先、子ヒツジが生まれても元素名はまだまだ余っているから、とりあえずの心配はなさそうだ。

 

「じゃあ、行ってくるよ」と大きな声でヒツジたちに呼びかけ、レオナルドは踵を返して踏み出した。

 

ヒツジ飼いの冒険(第18話)へ続く

ヒツジ飼いの冒険(第1話)から読む

*ヒツジ飼いの冒険は毎週日曜日12:00公開を予定しています。

カヌーイストなんて呼ばれたことも、シーカヤッカーと呼ばれたこともあった。 伝説のアウトドア雑誌「OUTDOOR EQUIPMENT」の編集長だったこともあった。いくつもの雑誌編集長を経て、ライフスタイルマガジン「HUNT」を編集長として創刊したが、いまやすべて休刊中。 なのでしかたなくペテン師となり、人をそそのかす文章を売りながら旅を続けている。