キング アーサーのここだけの話
港の小さな集落
俺の1歩先を歩くシンさんの元へもドライバーはやってきた。
「アフター・ポストオフィス」とシンさんはひとりめのドライバーをやり過ごした。
しかしそこから先へ進もうとするが、すべてのドライバーから「バンガロー、バンガロー」と声をかけられ、同じ答えを繰り返す。
当然、俺にも同じ質問が繰り返されたのだが、俺も「ミー・トゥー」をずっと繰り返した。
やっとの思いでドライバーの人波、鼻づまりのような発音の大声の波をくぐり抜けた。
目の前には小さな集落と、対照的に大きなジャングルが広がっている。
「タクシーを避けるために言ったの?」
「ちゃうよ。ホンマに郵便局に用があったんや」
「なんで郵便局に?」
「ペナンから、荷物を送ってたんや」
「なんで、ペナンから」
「ペナンでは、使ってたんや」
「あの子と一緒に?」
俺はようやくニコールのことを切り出せた。
でも核心に近づく前に、郵便局に到着してしまった。
「時間かかるかもしれんから、そこらへんで待っててや」
シンさんは扉のない郵便局に入っていき、俺は待ち時間を潰すために小さな集落を物色しはじめた。
続く
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