キング アーサーのここだけの話
届いていた大きな荷物
グロッサリーストアから出ると、シンさんは郵便局の向かいのヤシの木に背中を預けていた。
足元には、郵便局に届いていた大きな荷物が新たに加わっていた。
俺はシンさんの元へ、すぐに駆け寄った。
そしてタクシー乗り場となっている広場へと向かわず、2人でヤシの木陰にそのまま腰を下ろした。
遠目に広場を見ても、すべてのタクシーは出払っているようなので、あそこまで歩いて言っても意味がなさそうだったからだ。
「ずいぶんおっきいのを送ったんだね」俺は暗に中身を尋ねた。
それは今までに見たこともない、人が入ってしまいそうな大きなボストンバッグだった。
「スキンカヤックや」
「それって、何?」
「フォールディングカヤックならわかるか?」
「まったく」
「折りたたむことのできるカヤックや」
「そもそもカヤックがわかんないよ」
俺がアウトドアに疎かったというのもあるが、当時はカヤックなんて言葉はまだまだ一般的に広まっていなかったのも事実だ。
「折りたたみボートって思っとけば、そんな遠くはないやろ」
「ゴムボート?」
「そうなると遠い。フレームがあり、デッキもあり、ハッチもあるボートや」
「そんなの折りたためんの!?」
「そうや」と答えたシンさんは、目尻にシワを寄せた。
あの笑みで、俺は確信した。
ボートが折りたためるわけないと。
続く
次回の話/ペールグリーンの紙切れ
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