キング アーサーのここだけの話
ペールグリーンの紙切れ
土煙りを巻き上げながら、ピックアップ・トラックが港町へと戻ってきた。
広場には、まだ船から降りてきた客が数名残っている。
あのユダヤ系の女は見当たらない。
シンさんは数台のピックアップ・トラックをやり過ごした。
広場でタクシーを待つ客より先に、手前で割り込むというのに気が引けたのだろうか。
意外と日本人らしい一面があるようだ。
広場に客がいなくなったのを確認するとシンさんは立ち上がり、戻ってきたピックアップ・トラックに向かって手を振った。
指先には、名刺ほど小さなペールグリーンの紙切れがあった。
ドライバーはピックアップ・トラックから降りることなく、俺たちが荷台に乗りこむのを確認すると、会話を交わすこともなくアクセルを踏み込んだ。
「なんで、なにも聞かないの?」
「チケットの色で行き先がわかったんやろ」
「何それ」
「スラータニーのボート乗り場にあったからもらってきたんや。これ使えるでえ。」
チケットといっても、単にカラー用紙にコピーしたものを小さく切っただけの代物。
しかも製紙工程が悪いのか、ただ単に古くなっているのか、色ムラのある紙。
それぞれのバンガローが発行してるフライヤーみたいなもので、英語でインフォメーションが表記してある。
チケットを持っていればタクシーは発行しているバンガローへ案内し、港からのタクシー代金をバンガローオーナーが支払う仕組みになっている。
識字のないドライバーでも、バンガローごとに用紙の色が違うので、客と会話を交わすことなく送り届けることができる画期的なシステムだった。
続く
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