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ヒツジ飼いの冒険
第21話 薄明

まだ夜も明けきらぬ薄明の中、レオナルドは港町の酒場をあとにした。

バーテンダーの言う攻撃とは、一体どんな攻撃なのだろうか。

銃撃戦か、ミサイル攻撃か。

それともクラシックな矢が、雨のように降ってくるのか。

 

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いずれにせよ、ヒツジたちのいる場所を思い出してみても、どんな攻撃をもかわせるような建物はない。

前夜に降った雨も攻撃的だった。

ただしそれは単なる水滴。

体を貫くようなものではない。

そんな攻撃にも、人は弱かった。

そしてヒツジたちは強かった。

ヒツジたちはフカフカの羊毛という防弾チョッキをまとっていたので、降りしきる雨を微塵にも感じていなかった。

しかもヒツジたちはアウトドアの達人。

コンテナ船ピアネータ号に乗船している期間は特別として、この世に生を受けてからずっとアウトドアで暮らしていたのだろう。

 

レオナルドはゲリラ豪雨という攻撃をかわす場所もないので、ヒツジたちを盾に地面にうずくまった。

自然に弱いリーダーを匿うように、ヒツジたちは集まってきた。

レオナルドは羊毛の山に覆われ、雨風を凌ぐことができた。

その山の中心にいると、豪雨で低くなった気温をもまったく感じさせなかった。

 

そんなことを思い出しながら、どこまでも続く牧歌的な風景の中を歩いた。

とても攻撃がはじまるようには思えない。

その攻撃があった場合、こののどかな景色は一変してしまうのだろうか。

 

遠くの丘の上に、綿アメのような盛り上がりが見える。

間違いなくヒツジたちの塊だ。

寂しかったのか、それとも寒かったのかヒツジたちは身を寄せ、ひとつの大きな塊になっている。

群れから離れているのは1頭もないことが、遠くから確認できた。

 

動きはないように見えるから、きっとまだ寝ているのだろう。

塊になっているので、ここからは数を数えることができないが、綿アメの大きさから考えても全員無事にいるようだ。

あたりが荒れている様子もない。

あの場所でも、まだ攻撃はないようだ。

 

綿アメを見つけてからというもの、レオナルドの歩みは一段と速くなった。

ザッシュ、ザッシュとトレイルを蹴り上げる音が強くなっても、綿アメとの距離が近くなっていっても、ヒツジたちはまだ誰も起きようとしない。

ヒツジたちの肺が呼吸によって拡張収縮することで、大きな綿アメの山は生物のようにかすかな上下運動を繰り返している。

それを見て取れる距離となってもヒツジは目を覚まさない。

 

昨夜は頼りないリーダーの帰りを待って、いつまでも夜更かししていたのだろう。

そう思うと、レオナルドは歩みをゆっくりに変え、できるだけ足音が鳴らないように注意深く進んだ。

綿アメの山の麓にたどり着き、静かに腰を下ろした。

まだまだ寝かせてあげたいので、ヒツジに触れることもしなかった。

ヒツジに寄り添うことができた途端、レオナルドは睡魔に襲われた。

 

考えてみれば、昨夜は一睡もしていない。

前日も嵐の中にいたので、十分な睡眠は取れていなかった。

レオナルドは横になりながらも、両肘で上半身を支えた。

なぜ寝てしまわなかったというと、強い視線を感じていたからだ。

 

ヒツジ飼いの冒険(第22話)へ続く

ヒツジ飼いの冒険(第1話)から読む

*ヒツジ飼いの冒険は毎週日曜日12:00公開を予定しています。

カヌーイストなんて呼ばれたことも、シーカヤッカーと呼ばれたこともあった。 伝説のアウトドア雑誌「OUTDOOR EQUIPMENT」の編集長だったこともあった。いくつもの雑誌編集長を経て、ライフスタイルマガジン「HUNT」を編集長として創刊したが、いまやすべて休刊中。 なのでしかたなくペテン師となり、人をそそのかす文章を売りながら旅を続けている。