キング アーサーのここだけの話
空き部屋は絶対にある
スコールが通り過ぎ、熱帯雨林のジャングルは水蒸気に包まれていた。
雨がやむのを待っていたオーナーが母屋へと戻ってきた。
ナタリーの存在にすぐ気付くと「ウェルカム・マイ・ヴィラ」と声を掛けた。
「空き部屋はある?」ナタリーが質問した。
絶対にある。
絶対にある。
絶対に空き部屋はある。
俺は声に出さず、天に念じた。
空き部屋がなかったら、ナタリーは本当にシンさんの部屋に行ってしまう。
そんな雰囲気だった。
「何日間?」バンガローのオーナーは短い単語でナタリーに聞き返した。
「次の新月まで」
「1秒待って」オーナーは親指を舐め、宿帳をめくった。
1秒で確認できるわけないのに、オーナーは英語に毒されてるようだ。
絶対に空き部屋はある。
なきゃダメだ。
1秒どころではなく1分ものあいだ念じ続けたが、同時に俺が帰国してからも彼女がここに残る不条理に、天を呪わずにはいられなかった。
オーナーは日付を指で追い、への字に結んでいた口をやっと開いた。
「ひと部屋だけ、空きがある」
一瞬の安堵に包まれたが、2日後の夜にはここを離れなければならない俺は、さてどうすればいいのだろうか。
続く
前回の話/彼女の名前はナタリー
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