LIFE,  TRIP

キング アーサーのここだけの話
空き部屋は絶対にある

スコールが通り過ぎ、熱帯雨林のジャングルは水蒸気に包まれていた。

雨がやむのを待っていたオーナーが母屋へと戻ってきた。

ナタリーの存在にすぐ気付くと「ウェルカム・マイ・ヴィラ」と声を掛けた。

「空き部屋はある?」ナタリーが質問した。

 

絶対にある。

絶対にある。

絶対に空き部屋はある。

 

俺は声に出さず、天に念じた。

空き部屋がなかったら、ナタリーは本当にシンさんの部屋に行ってしまう。

そんな雰囲気だった。

 

「何日間?」バンガローのオーナーは短い単語でナタリーに聞き返した。

「次の新月まで」

「1秒待って」オーナーは親指を舐め、宿帳をめくった。

1秒で確認できるわけないのに、オーナーは英語に毒されてるようだ。

 

絶対に空き部屋はある。

なきゃダメだ。

1秒どころではなく1分ものあいだ念じ続けたが、同時に俺が帰国してからも彼女がここに残る不条理に、天を呪わずにはいられなかった。

 

オーナーは日付を指で追い、への字に結んでいた口をやっと開いた。

「ひと部屋だけ、空きがある」

一瞬の安堵に包まれたが、2日後の夜にはここを離れなければならない俺は、さてどうすればいいのだろうか。

 

続く

前回の話/彼女の名前はナタリー

「キング アーサーのここだけの話」は毎月3の倍数日に更新!

最初の話/はじまりのはじまり

キング・カズと生年月日が一緒の1967年2月26日生まれ。外人は<アサタロー>と発音しにくいらしいので、海外では<アーサー>と名乗っていたら、親しい外人仲間が<キング・アーサー>とニックネームをつけてくれた。「アサタロウ」と日本で名乗ると「アソウ・タロウ?」と聞き間違いされることが多々ある。彼が幹事長のときは俺に<カンジチョー>のあだ名がつき、総理大臣になると<ソーリ>と呼ばれるようになったが、彼の総理大臣辞任後も俺の格下げはなく、いまでも<ソーリ>のあだ名は定着している。本業はコーディネーター。