FOOL

ヒツジ飼いの冒険
第26話 原石

カルボと呼ばれたヒツジ。

もともと温和なヒツジたちの中でも、もっとも穏やかそうに見えた。

 

<前話を読み返すには、こちらをクリック>

 

その一方で才能豊かで磨けば光るダイヤの原石。

いや磨く前に、もっともっと熱を持って鍛え上げる必要もありそうだ。

言うなればダイヤの元となる炭素のような存在。

そのヒツジには原子番号6、カーボンのラテン語読み、カルボと名付けられていた。

 

温和だが一番勇気のあるカルボはゆっくりとレオナルドに近づき、背を低くした。

それは自分に跨れという意味に違いない。

「カルボ、大丈夫なの」

「メエ」カルボの意志の強そうな目が光っている。

レオナルドは気を使って弱々しく跨ると、カルボは力強く立ち上がった。

ふわふわとした上質な羊毛がびっしりと生えているカルボ、その乗り心地は上々だ。

 

普段もっとものんびりとしたカルボは急ぎ足で進み、ヒツジの群れに溶け込む。

目の前ではすでにジャックがヒツジたちの背中に立ち乗っていた。

「メエ」

「メエ」と多くのヒツジたちが、レオナルドにもジャックと同じように立ち上がれと促した。

確かにカルボ1頭の背中だけではなく乗るのではなく、2頭に跨った方がヒツジたちの負担も少ない。

カルボの隣にいたヒツジの背中を借り2頭に渡って大股に跨ると、レオナルドはヒツジの背中に立ち上がった。

そこから見る風景は、まるで低く垂れ込めた雲海の上に立っているようだった。

「メエ」

「メエ」とまた多くのヒツジたちが自分の上にも立てと催促する。

「待って待って、いま行くから」不慣れなレオナルドは雲海の上を、一歩一歩バランスをとりながら歩きはじめる。

レオナルドが進みたい方向へ歩き出すと、後方にいたヒツジたちは地面を埋めるように先回りしレオナルドを追い抜いていく。

ヒツジに負担をかけないように、薄氷を履むように慎重にそしてゆっくりと歩いていたレオナルドではあるが、追い抜いていくヒツジたちはいつもより機敏に進んでいるように見える。

ひとかたまりとなったヒツジの群れが、ニワトリの大群で真っ赤に染まった大地を進む。

レオナルドの侵入に気づいたニワトリは飛び上がって抵抗するが、ヒツジの背ほども高くは飛べない。

「そろそろヤツがやってくるころだな」ジャックが言った。

「ヤツって」

「交渉人だよ」

「それって、どんなヤツ」

「来てのお楽しみだ」ジャックは不敵に笑った。

 

ヒツジ飼いの冒険(第27話)へ続く

ヒツジ飼いの冒険(第1話)から読む

*ヒツジ飼いの冒険は毎週日曜日12:00公開を予定しています。

カヌーイストなんて呼ばれたことも、シーカヤッカーと呼ばれたこともあった。 伝説のアウトドア雑誌「OUTDOOR EQUIPMENT」の編集長だったこともあった。いくつもの雑誌編集長を経て、ライフスタイルマガジン「HUNT」を編集長として創刊したが、いまやすべて休刊中。 なのでしかたなくペテン師となり、人をそそのかす文章を売りながら旅を続けている。