珈琲をもう一杯/第十五話「適温 その1」
ある夜、コーヒーを上手く淹れるにはどうすれば良いのだろうと、
考えながら歩いていたのです。 綿花の広がる夜道を。
十字路に差し掛り、さて、どちらに進もうか迷っていると、
右のポッケの浅煎り豆かつぶやいたのです。
「僕は熱いお湯が好き。綺麗な酸味と良い香りを出しますよ。」と、
はて、今度は左のポッケの深煎り豆が「俺は少し冷ましたお湯が好きさぁ。
柔らかな苦味を出してあげるさぁ」と言ったのです。 ウチナー口で。(カフー)
わぁ、浅煎り、深煎りで淹れ方が違うんですね。
どうしたら良いんでしょう。
すると背後から黒い影が忍び寄り
「どちらも湯を沸かしたらポットに移し、直ぐにドリップを始めるのじゃ」
と、囁いたのです。 えっ、深煎りは冷まさなくても良いの?
しかし、この囁きを聞いた僕は閃いたのです。
急ぎ家に引き返すと薬缶でお湯を沸かし、ドリップポットに移す(94〜95℃くらい)
やいなや、そそくさとドリップを開始したのです。
ポットの口から注がれるお湯は空気や粉に触れると温度が下がるので、
浅煎りはフィルター中の温度が85〜90℃位になるように手早く、
そして中煎りと深煎りは80〜85℃位になるようにゆっくりゆっくりと。
そう、僕は湯を注ぐ速度でフィルター内の温度を調整するようにしていたんです。
するとどうでしょう。 淹れた珈琲、
浅煎りはミシシッピの碧い空のように澄み渡り、
また、深煎りはローズデイルの闇夜のように黒く染まったのです。
僕の珈琲、飲んで頂けますか。
ねぇ、ウイリーメイ。
つづく