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キング アーサーのここだけの話
映画を字幕で観ている俺

満月は高くなるほど明るさを増した。

ちょび髭の男、ナタリーとシンさん、そして俺という4人だけの空間で、俺だけにそのスポットライトを当てられている気恥ずかしさがあった。

 

「スペイン語まで喋れるの?」俺は何とか言葉を紡ぎ出し、シンさんに尋ねた。

「簡単な会話だけな。それよりもさっきのは、有名なセリフだよ」

「そうよ、有名なセリフよ、知らないの?」とナタリーも続いた。

 

映画を字幕で観ている俺にとって、セリフなんてよっぽどじゃなきゃ耳に残らない。

「知らないよ。日本では、きっとまだ公開になってない」俺は<まだ公開になってない>を特に強調し、字幕で観ていることは伏せた。

 

しかしちょび髭の男は片言の英語で、知っている限りの単語を重ねて言った。

「オールド・ムービー。トラディショナル・ムービー。ベリー・フェイマス・ムービー」

ちょび髭の男に悪気はなかったのだろうが、単語を重ねれば、重ねるほど、俺を全否定する形になった。

 

「無理もない。イージーライダーだ」映画を字幕で観ている俺を悟り、シンさんは多くを語らず救ってくれた。

それにもかかわらず、俺はまだ格好つけようとしてすぐに反応してしまった。

「ビデオで観たけど、日本版ではそんなシーンはカットされてる」

 

その反応にシンさんは呆れ果てた顔をした。

日本版を観たこともないはずのナタリーは、笑いながら言った。

「絶対にカットしないわ。重要なシーンだから」

 

「どんなシーン」俺は頑なだ。

「冒頭のシーン。日本版ではカットされてたかもしれないな」シンさんが笑いながら言った。

ちょび髭の男は眉間にしわを寄せ、ナタリーとシンさんにピンクのドリンクを渡しながら呆れるように言った。

「ディレクターズカット? クレイジー」

 

続く

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最初の話/はじまりのはじまり

キング・カズと生年月日が一緒の1967年2月26日生まれ。外人は<アサタロー>と発音しにくいらしいので、海外では<アーサー>と名乗っていたら、親しい外人仲間が<キング・アーサー>とニックネームをつけてくれた。「アサタロウ」と日本で名乗ると「アソウ・タロウ?」と聞き間違いされることが多々ある。彼が幹事長のときは俺に<カンジチョー>のあだ名がつき、総理大臣になると<ソーリ>と呼ばれるようになったが、彼の総理大臣辞任後も俺の格下げはなく、いまでも<ソーリ>のあだ名は定着している。本業はコーディネーター。