ヒツジ飼いの冒険
第32話 侵入
毎週日曜日に新規投稿している「ヒツジ飼いの冒険」は書き下ろしです。
新規投稿をするのと同時に、前回の投稿をほんのちょっと手直しすることも多々あります。
ストーリー展開に関わるような大きな変更ではなく、読みやすくになった程度の変更。
とは言え新しい投稿を読む前に、前話を読み返すことをおすすめします。
第32話のはじまり
お引き取りくださいといわれて引き返すようなら、最初から旅に出ていない。
リンダからは何度も説得された。
いや、リンダがついていきたいというのを、説得してつれてこなかった。
この旅では、何らかの収穫がレオナルドには必要だった。
見てみたいと思う好奇心と、何かを得たいとする野心。
そのふたつがレオナルドを突き動かしていた。
「キミでは話にならない。ルカを待つよ」レオナルドは赤い羽の交渉人に告げたが、当の黒い羽の交渉人は一向にやってこない。
それは同じくジャックもだった。
ジャックとルカの間に、なにかトラブルが生じたのか。
町を攻撃されたジャックにとって、ルカはいまいましい鳥王国の一味だ。
相手が1羽ならば、勝てないはずもない。
まさかジャックは暴力をもって立ち向かったのか。
実際には短かったけれど、レオナルドにとって永遠とも思える時間が流れた。
強い眼力の持ち主は1羽だけでなく、次々と集まってきた。
あまりに密集してきたので、これではジャックもレオナルドの元へ近づけない。
強い眼力を持つ鳥たちは、先へ進もうとはせず、ただそこで強く足踏みを続けた。
それは何らかのメッセージなのだろうか。
理解に苦しむレオナルドのところに、やっとジャックが追いついた。
ジャックは急ごうとせず、ゆっくり近づいてきたのだった。
しかも肩にはルカを連れ立って。
「和解したの?」レオナルドは聞いた。
「和解も何も、はじめからケンカなんかしちゃいない」ジャックはそう言うと、肩に乗ったルカもうなずたい。
「ケンカしてない」ルカも応えた。
ルカが言葉を繰り返さずに言ったのに、レオナルドは気づかなかった。
「先に進みたい。このダチョウの群れを説得して欲しい」レオナルドは黒い羽の交渉人、ルカに告げた。
「先に進みたいなら、先にルカを説得するべき」とルカが言った。
確かにそうだ。
ジャックの交渉にルカが真剣に取り組んでいる最中に、レオナルドはこっそり歩みを進めただけで、何の許可もなく侵入を続けた不届きな計らいだった。
「世界のすべてを見てみたい。それだけじゃ言葉が足りない?」レオナルドはとても説得とは遠い言葉をルカに告げた。
「ワシはいいと思うけどな」ジャックが肩に乗ったルカに言った。
ルカはジャックの肩から離れ、ダチョウのリーダー格の背中に飛び移った。
ダチョウの背中で3回首をかしげると、冠羽を立て、羽を大きく広げ、興奮したような素振りでダチョウのリーダー格に耳打ちした。
ヒツジ飼いの冒険(第33話)へ続く
ヒツジ飼いの冒険(第1話)から読む
*ヒツジ飼いの冒険は毎週日曜日12:00公開を予定しています。