珈琲をもう一杯 / 第三十三話「ペンはモカが好き / Mocha coffee have more fun」
大好きなモカを飲んでいる時
堀田兄さんから
「Stay home が続いたから
ブゥードゥの悪魔汁が切れそう」
とメールが。
悪魔汁かぁ、とつぶやきつつ僕は
モカ発祥の地に思いを馳せたのです。
そのむかし、エチオピアの奥地では
悪魔が亡くなると土葬され、
その後そこにはコーヒーノキが生えました。
悪魔の生前の行いによりそれぞれの
コーヒーノキは異なった品種となり、
ある日、品行方正な悪魔から生まれた
2種の実が川に落ち、その後、大西洋へと
流れ出ました。
年月を経てこの2種が流れ着いた島や国では
この実の魔力に取り憑かれ栽培を始めました。
更に、農園の規模を拡大したり、耐病性や
生産効率性を目的として品種改良を図り
多種の品種を作りだしました。
やがて、コーヒーの世界を席巻しはじめた
これらの国では、付加価値を付けるべく、
品評会等を催し、はてはオークションでの
取引まで行われるようになりました。
コーヒーを求める消費者はこぞって品評会
で高得点を獲得したものやオークションで
高値の付いたものに飛びつきました。
そして、このコーヒーは美味しいんだ、
これぞコーヒーだと言いながら飲むように
なりました。
もとは品行方正な悪魔を祖先にもつ豆です、
当然、素直で明るい味のコーヒーです。
一方、エチオピアでは小規模な農家が森に
入っては色々な悪魔を祖先に持つコーヒーノキ
から収穫し、それを集積所に持ち込み、
他の農家のものと混ぜて出荷しました。
豆の大きさは不揃いですし、
豆面も綺麗ではありません。
それもその筈です。
なにしろ品行方正の悪魔だけではなく
悪行三昧の悪魔の祖先もいますから。
勿論、オークションどころか品評会
さえ開かれません。
これらのコーヒーはけっして
洗練された味ではありません。
しかし、清濁併せ吞んだ豆には
地の底から湧き上がる深い
魔力があり香り、味わいには魅力に溢れ、
他には類を見ないコーヒーです。
僕にとって
味に魅力、いや、魔力が宿ったエチオピアの
モカはコーヒーを悪魔汁と言って憚らない
ものなのです。
おいおい、思いを馳せるって
作り話じゃないかっ・・って?
いいんです。
この話、信じる信じないはあなた次第ですから。
とまれ、
モカの魅力を使えたかったんです。