LIFE,  TRIP

キング アーサーのここだけの話
髪引かれる思いなんてあるのか

大陸に接岸し、このまま離ればなれになったら、いま目に前にいるナタリーすらも後ろ姿しか浮かんでこなくなるのだろうか。

そして、短い期間だったが大きな影響を受けたシンさんのことも、思い出せなくなるのだろうか。

俺は思わずデッキの船首側にいるシンさんの元に駆け寄った。

 

「陸、もうちょいやな」

俺が駆け寄ったというのに、近づいてきたことを察したシンさんが先に声をかけてくれた。

「う、うん。島からは大陸が見えなかったけど、意外に近いもんだね」

「近かいもんちゃう。フネが早いだけや」

「おんぼろフェリーだから、早かないよ」

「この距離やったら、スキンカヤックなら1日楽しめるで」

つまり、いまは楽しめていないということだろう。

 

船首に立ち、前方を見ながらも後ろ髪引かれる思いなんて感情が、シンさんにあるのだろうか。

かくいう俺は未来が見えず、しかし過去を振り返る余裕もなく、いま起きていることだけで一杯いっぱいになっていた。

 

続く

前回の話/いつまでも一緒にいられない

「キング アーサーのここだけの話」は毎月3の倍数日に更新!

最初の話/はじまりのはじまり

キング・カズと生年月日が一緒の1967年2月26日生まれ。外人は<アサタロー>と発音しにくいらしいので、海外では<アーサー>と名乗っていたら、親しい外人仲間が<キング・アーサー>とニックネームをつけてくれた。「アサタロウ」と日本で名乗ると「アソウ・タロウ?」と聞き間違いされることが多々ある。彼が幹事長のときは俺に<カンジチョー>のあだ名がつき、総理大臣になると<ソーリ>と呼ばれるようになったが、彼の総理大臣辞任後も俺の格下げはなく、いまでも<ソーリ>のあだ名は定着している。本業はコーディネーター。