キング アーサーのここだけの話
たったそれだけのことで
携帯電話のない時代。
電話をかけても、相手は家にいない可能性もある。
連絡を取るのも大変だけど、それで特に不自由をしていた記憶はない。
携帯電話のある今の方が、気持ちを荒げることがある。
ただでさえ賑やかに感じるこの国の人の会話。
雑多に感じる風景。
何かのトラブルのせいでホームはさらにざわつき、人もモノも乱れている気がする。
俺にしてみれば言葉も通じないし、この国の文字も読めない。
それでも、心は穏やかだ。
車窓からホームを見渡していると、ひとりの女の子のところで目に止まった。
マグカップで何かを飲んでいる。
この国でマグカップを使用しているなど、本当に珍しい光景だ。
飲んでいる本人も、それを感じているのだろう。
たったそれだけのことで、幸せな気分になっているのだろう。
俺は自分の幸せを求め、進路を定めた。
「俺さあ、バンコクに着いたら・・・」
ナタリーがいないので、俺はシンさんに日本語で、本音を語りはじめた。
続く
前回の話/公衆電話にいるナタリー
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