キング アーサーのここだけの話
スピードボートに乗らなきゃ
ひと気がなくなってからゆっくりと列車を降りた。
ハーフドーム型のフアランポーン駅を出ると、今度はスピードボートの桟橋で大混雑している。
「並んでも、しばらくは乗れないよ」シンさんが言った。
「ランチでもしようよ。なんか温かいのを」ナタリーが言った。
列車に乗っているあいだ、職にありつけるとしたらパックに入った冷えた弁当だけだった。
たしかにまる1日以上、温かいメシを食っていない。
「でも、ランチを食べるにも、スピードボートに乗らなきゃ」と俺は返した。
気持ちはすでにカオサン通りへと向いていた。
「チャイナタウンへ行こう」シンさんが言った。
「チャイナタウンはどっち?」ナタリーが聞いた。
「このすぐ裏だよ」シンさんが返した。
たしかに。
カオサン通りへ向かうことだけしか考えていなかったから忘れていたが、チャイナタウンはフアランポーン駅の裏側。
歩いても行ける距離だ。
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