キング アーサーのここだけの話
明らかなる違法建造
船へと乗り込む桟橋は脆弱で頼りない作りだった。
これなら井之頭公園の手漕ぎボート乗り場の方が、よっぽど豪奢だ。
船には建築現場にあるような足場板がかけられている。
とてもその板に体重を預ける気持ちになれず、跳び箱のロイター板のつもりで一歩だけ足をかけ、大きく飛び跳ねて船へと渡った。
船は無理に増築して三層構造となった客船。
明らかに漁船出身だろう。
その船に、今回は一体何百人が乗り込んだのだろうか。
俺はシンさんの言うままに、三階の屋根の上によじ登った。
「この船って、明らかに違法建造だよね」俺はシンさんに告げた。
「違法かどうかは、この国の法律を知らんからなあ」と、シンさんはのん気にかまえている。
「どう見ても、もとは漁船でしょ」
「漁船は荒波に強いんやで」
荒れ狂う海でも、少しでも儲けるために漁に出て、無事に帰ってくるのが漁師。
これからやってくる気象、地域に起こる海象をよく知ってる漁師が使ってるプロの道具が漁船。
まだ眠そうな目でシンさんは話した。
そう言い終えるのが早いか、横になるのが早いか。
バックパックを枕に屋根の上で寝転がり、ハットで顔を覆った。
まだ暗い空と、それを写す黒い海。
船から落ちても、誰も気づかないだろう。
「シンさん。やっぱ下の方がいいんじゃないの」正直な話、本来は乗客が乗らない柵もない屋根にいることを俺はビビっていた。
「下がいいんなら、行っててええで。僕はこっちで寝てるから」ハットを顔から外すことなく答えた。
またすぐにも寝息を立てそうな、眠たげな声だった。
続く
次回の話/屋根の上のアホウ
前回の話/人生を踏み外した瞬間
「キング アーサーのここだけの話」は毎月3の倍数日に更新!