キング アーサーのここだけの話
いい旅を、と誰もが言った
ゲートをくぐり抜けると<ボン・ボヤージュ!>と描かれた看板の裏には<ハブ・ア・グッド・ジャーニー>とあった。
「来る者も去る者にも“いい旅を!”ってのが、ええやろ」
ここまできて、シンさんとやっと会話らしい会話がはじまった。
確かにポジティブに考えれば、そうも思える。
「アーサーは“いい旅を、と誰もが言った”って本を読んだことあるか」
「ないけど。誰の本」
「去年来たときバンガローに置いてったから、運がよければ残ってるかもな」
「誰の本って質問に、答えてないじゃん」
「バンガローに着くまでのお楽しみや」
「1年前の話でしょ。残ってるわけないじゃん!」
「そりゃ、そうやな!」と2人して吹き出して笑った。
港町と呼べるのだろうか、桟橋の付け根には数件の集落があり、広場には十台くらいのダットサンのピックアップ・トラックが並んでいた。
トラックのドライバーらしき男たちは下船した客に、「バンガロー、バンガロー」とひとり残らず声をかけていた。
どうやらあのピックアップ・トラックは乗合タクシーの役割を果たしているようで、ドライバーは客たちが目指す宿を聞くと、タクシーの向かう先へと振り分けていた。
続く
次回の話/港の小さな集落
前回の話/ボン・ボヤージュ!
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