LIFE,  TRIP

キング アーサーのここだけの話
達成感に満たされた俺

先ほどまで無風だったのに、向かい風が急に強くなったように感じた。

その向かい風の感触とともに、視覚的にもカヌーが進まなくなっている。

 

「あのスコール、こっちに向かってくるなあ」とシンさんが言った。

確かに、視界の遠い先は雨雲に覆われている。

「もう、戻る?」俺は荒天を恐れた。

「このフネじゃあ、戻った方がいいやろな」と言い終えた頃には、シンさんはカヌーの進行方向を陸へと変えていた。

 

向かい風から追い風へと変わったので、カヌーは加速した。

ビーチ際ではサーフィンのようになめらかに横滑りしていき、砂浜に突き刺さるようにして止まった。

 

戻りを決断したタイミングはドンピシャだったようで、上陸すると空からゴロゴロという音が鳴りはじめた。

スコールが降りはじめる前にと、俺たちは駆け足でバンガローの母屋に逃げ込んだ。

 

はじめて乗ったカヌー。

わずか30分にも満たないショートツーリング。

しかもパドルすら握っていないが、荒天前に戻ってこられたので、俺は達成感に満たされていた。

 

続く

次回の話/突然降り出したスコール

前回の話/野上真一は悪魔の生まれ変わり

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最初の話/はじまりのはじまり

キング・カズと生年月日が一緒の1967年2月26日生まれ。外人は<アサタロー>と発音しにくいらしいので、海外では<アーサー>と名乗っていたら、親しい外人仲間が<キング・アーサー>とニックネームをつけてくれた。「アサタロウ」と日本で名乗ると「アソウ・タロウ?」と聞き間違いされることが多々ある。彼が幹事長のときは俺に<カンジチョー>のあだ名がつき、総理大臣になると<ソーリ>と呼ばれるようになったが、彼の総理大臣辞任後も俺の格下げはなく、いまでも<ソーリ>のあだ名は定着している。本業はコーディネーター。