LIFE,  TRIP

キング アーサーのここだけの話
東屋の木陰で

オーナーはナタリーを空き部屋へと案内した。

俺はほかの部屋がどうなっているのか気になっていた。

特に、ナタリーが泊まるからこそなのかもしれない。

 

「さてと」シンさんはヒザに手を当て、立ち上がった。

「どこ行くの?」俺はとっさに尋ねた。

「スキンカヤックでも組もうと思って」

絶対にウソだ。

シンさんはナタリーの様子を見に行こうとしてる。

俺はこれ以上遅れを取るまいと立ち上がった。

 

母屋のバンガローから2件、住人が誰であるかわからぬ小屋があり、そこから先にナタリー、俺、シンさんの小屋という順で海沿いに緩やかなアーチを描いて並んでいた。

 

2人を追うように歩きはじめたが、シンさんは意外にもナタリーの部屋の部屋を通り過ぎ、一番右端にある自分の小屋に向かっていった。

小屋のさらに右側には小さな東屋があり、そこは壁がなく、屋根にヤシの葉を葺いただけ簡素なものだった。

その先は行き止まりで、マングローブの林が生い茂っていた。

 

東屋の木陰で、シンさんはスキンカヤックなるものを組み立てはじめた。

大きなボストンバッグから何本ものアルミパイプを取り出し、最後に干しイカのようにペッタンコになった巨大な生地を広げた。

 

大変に興味はあったのだが、それ以上にナタリーが気になった俺は、スキンカヤックの組み立ての瞬間を見届けず、その場を離れた。

 

続く

次回の話/私は賭けた

前回の話/空き部屋は絶対にある

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最初の話/はじまりのはじまり

キング・カズと生年月日が一緒の1967年2月26日生まれ。外人は<アサタロー>と発音しにくいらしいので、海外では<アーサー>と名乗っていたら、親しい外人仲間が<キング・アーサー>とニックネームをつけてくれた。「アサタロウ」と日本で名乗ると「アソウ・タロウ?」と聞き間違いされることが多々ある。彼が幹事長のときは俺に<カンジチョー>のあだ名がつき、総理大臣になると<ソーリ>と呼ばれるようになったが、彼の総理大臣辞任後も俺の格下げはなく、いまでも<ソーリ>のあだ名は定着している。本業はコーディネーター。